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そろそろ、寒くなる頃。

衣替えまではあと半月程あるものの、適温の幅が狭い私はすっかりカーディガンを愛用するようになっていた。

「…半袖の制服にカーディガンって変だ」
「それはね、きっとこの制服を3年間見続けてるからそう思うんだよ。別に初めて見る人はこの下に半袖着てるなんて誰も思わないよ?」

ファッションより防寒重視。3年間(実質2年か)秀徳に憧れ続け、この制服を見つめ続けてきた私だって違和感くらいは覚えていたけど、やっぱり朝夕の冷えには耐えられない。

「てか、そろそろウィンターカップの予選あるよね? 初戦いつ?」
「来週末」
「ふえー、いよいよだね」
「……そうだな」

ふ、と遠くを見るお兄ちゃん。きっと3年間のバスケ部生活が脳内をよぎったんだろう。そうやって一瞬でフラッシュバックするほど、濃厚であっと言う間の時間だったんだろう。

「できる限り応援に行くね」
「それよりお前は勉強してろよ。今回学年1位取るんだろ」
「………うん!!!! 言うだけタダだから!!」
「オイ」

だって、うちのクラスだけで考えたって委員長や緑間がいるし、高尾だってああ見えて要領の良さはピカイチだし、王座とはそんな簡単にとれるものではないのだ。あーーー、つくづく思うけど帝光とか洛山ってしゅごいのう…。

「…ま、テスト終わってからでも試合はあるしね」

逃げるついでにさり気なくプレッシャーのお返し。私が自分の勉強に思いっきり打ち込んだ後でも試合を見に行けるよう、ちゃんと本戦まで勝ち進んでよね、って言外にぐっとメッセージを込める。

お兄ちゃんは、返事をしなかった。

…………代わりに、拳骨が返ってきた。笑うような吐息と共に。





「聖花はテスト勉強よりうちの試合だろ!?」

朝のお兄ちゃんの脅迫をあっさり覆してくるのは言うまでもなく、高尾君である。箸を振り回すところまで平常運転。

「うん、まぁ時間作って行くつもり」

お兄ちゃんにはああ言ったけど、試合の応援に行ったところでいくらでも勉強の時間は作れる。それに考えてもみてよ、緑間と高尾はただでさえ勉強時間がないに等しいのに、ちゃんと良い成績をとってきてる。私にできない訳がない!!!(と言う理不尽な対抗意識を持っていることを彼らは知らないんだろうが)

「……あれ、ていうか緑間は?」
「ん? 青春を謳歌してる」
「せ…………?」

一瞬想像したのは、海がよく見える国道の坂道を猛スピードを出す自転車で駆け下りる笑顔の緑間。ぶるりと背筋が寒くなったのは、きっと……きっと、気候のせい。

いや、そうじゃなくて……

青春?
緑間が青春って、バスケ以外には思いつかないんだけど。でもバスケの練習をしてるなら、高尾が一緒に行かない訳がない。スランプで1人にしてほしいから、って雰囲気でもなさそうだし……

「……やっぱ繋がんないよな、真ちゃんと恋愛なんて」

首を傾げる私を見て、高尾がけらけらと笑った。

うん、全然繋がんな………って………

「っれ!?」

思わず変な声が出た。
緑間? 恋愛?
ひとつひとつの言葉の意味は解るのに、並べられると途端にゲシュタルト崩壊した文字を見た時の、あの感覚に陥る。

「えちょ、れ、恋愛ってなに!?」
「真ちゃんただいま告白タイム」
「えっ、誰に!!!!!!!!」
「いや、告"られる"方。なんか先輩っぽかったぜー、あれ」

告られる、しかも先輩に。
そこまで聞いてやっと息をつけた。

まぁ、緑間から行ったわけじゃないなら解るかな。
それから、緑間のことをよく知らなさそうな人(知ってたら逆に高尾がその人のことを知らない訳ない)だっていうなら、それも解るな。

確かに緑間は見てる分にはとてもプラスのものをもたらす存在だ。綺麗だし、背も高いし頭も良いしスポーツもできる。ほら、ステータスだけならそれこそ学園の王子様になれる。

でも私達…これは何も私や高尾のように親しくなくとも良い……緑間真太郎という人間を少しでも知っていれば、彼を王子様と呼ぶにはパーツがいくつか、それも致命的なパーツが足りていないことがすぐに解る。
だから私達は緑間を素敵だと思いこそすれど、それが恋にまで発展するのは非常に稀な話であった。否定はしない。もちろん本気で好きな子もいるんだろうけど、稀、だから。あくまで確率の話ね。

そして緑間自身にも、恋愛する気が微塵もない。それこそ恋愛なにそれオイシイノというあれだ。私も高尾もそんなに恋愛に希望を抱いている方ではないが、緑間はもはやそういう次元ではない。
彼は恋を知らないのだ(知ったかぶったような言い方になるのは許してほしい…だって緑間、自分で「恋だの愛だの、そういった類のものは小説の世界で知っている。充分だ」とか言ってんだよ!!! まぁ私も恋愛なんて知らないけどね!!!)。

「高尾、その人の事は見たの?」
「見たどころか、俺だよあいつを呼び出したの。頼まれたんだ、緑間君いるかなって」
「へぇ…どんな人?」
「んーと、美人ってよりは可愛い系で、天然ぽくて、小さくてふわふわしてて………」

あー、つまり、緑間の好みとは正反対、と。

もはや何も言うことができず、苦笑いに苦笑いで返すという不毛なやり取りになった時、折良く緑間が帰ってきた。

「おかえり緑間」
「泣かせなかったかよ」
「わざとじゃない」

泣かせたんだ。

「だいたい、よく知りもしないのに軽い気持ちで付き合うことなどできないのだよ」
「ほー、じゃ、よく知ってる相手なら良いわけ?」

いつものように揚げ足を取る高尾の顔は、もうすっかりいつもの楽しそうなものに戻っていた。
そんな軽口を叩かれた緑間も、いつもの仏頂面で……………何故こっちを睨む。

「……?」

体感時間およそ10秒。私のことを凝視した緑間はこれまた何故か溜息をついた。

「馬鹿な事を言うな」

そう言って、何事もなかったかのように食事を始める。
逆に今度動きを止めたのは高尾の方で、緑間の視線を追うように私で視線も止めていた。暫く思案していたと思えばゆっくり頬杖をつき、にんまりと口角が上がっていく。

「…………ふぅん?」

そう小さく呟いたけど、ゴメン、何がふぅんなのかさっぱり解らない。

「聖花 は女の子だねぇ」

「…………格好だけはちゃんと女の子らしくしてるつもりなんだけど…」
「ウン、女の子女の子」

突拍子もなく自分の性別を再確認させられた。意味が解らず首を傾げてみるけど、高尾はそんな私の疑問など全く意に介さず、緑間いじりに全力を傾けてしまった。

なんだこいつら。



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