「ありえねえ…なんでまたこのタイミングで全員呼び出されなきゃいけねえんだよ…大会前の一番大事な時間だろが」
「いやー、でもこうして集まると1年の時のこと思い出すッスね〜。おんなじように突然集合かけられて、ここでおんなじようにみんなで揃ったの、懐かしいな〜。殺気がバシバシ漂ってたッスもんね。てかあの頃の赤司っちマジ怖かったッス」
「…でも、あの時とは随分変わりましたよね。皆」
「まあ…色々あったッスからね。俺ら全員」
「フン、お前達が下手に拗らせていただけだろう。一緒にするな」
「そんなこと言ってますけど、緑間君も結構変わったと思いますよ」
「ね〜、てか肝心の赤ちんはまだ〜? 俺早く戻んないとキャプテンにドヤされんだけど〜」
「そういう意味では緑間っちより紫原っちの方が変わってねえッスね…」
「────すまない。皆、待たせた」
「あ、赤司く────」
「ほんとに遅ぇよ。2年前じゃあるまいし、今度は何の用────」
「ああ、あの時は残念ながら俺達全員が自分のことで手一杯だったからな。今回はこうして集まれる最後の夏だから改めて、皆の顔を見たくなったんだ。────今度は、"彼女"も一緒に」
「……待て、赤司」
「……え、赤司っち…」
「おい、お前…隣にいんの…」
「うわマジ? 影ちんじゃん」
「冬子さん!」
「…あはは……ひ、久しぶり…」
「────恥ずかしい話だが、あの頃の俺達はあまりに未熟だった。…でももう、俺達全員があの時とは違う。あんな風に、互いの人格まで否定して戦う必要はなくなった。だから今度こそ、また5年前と同じように、目の前のボールを追って全力を尽くし、互いを認め合うための戦いをしよう」
「いやその宣言は良いんだけどよ……なんで冬子がここにいんだよ。お前、秋田行ったはずじゃ」
「え…流石に情報滞りすぎでは…? ていうか実は私もさっき赤司から突然呼び出されたからよくわかってないんだよね…。そもそも携帯変えたのに番号知られてるのが怖くて怖くて…」
「すみません、僕が教えました」
「うわ、やっぱりテツヤだったか。にしてもせめて赤司には名乗って欲しかったかな…。一方的に"体育館前に集合してください"とだけ言って一方的に電話切られた私の気持ち…」
「? でも水影さんなら最終的には来てくれるでしょう?」
「いや確かに来たけども…」
「…あの、水影っち……その、3年前は…すみませんでした。俺、全然水影っちの気持ちとか、皆の気持ちとか考えらんなくて…」
「黄瀬ちんめっちゃサイアクだったもんね。まさに悪意のない悪口ミサイルってカンジ」
「え、紫原っちがそれ言う!?」
「俺はだってもう影ちんとちゃんと仲直りしたし」
「うん…仲直り、ってか、皆の気持ちを考えられなかったのは私も同じだから。間違ったことを言ったとは今も思ってないよ、でも…確かに一方的だった。ごめんね」
「今更謝って仲直りとか小学生かよ。俺だってあの時自分が間違ってたなんて思ってねえし。それで絶縁すんなら最初からそれまでなんだよ」
「でも、水影っちはこうして来てくれてるじゃないッスか」
「…だからそういうことだろ、っつってんじゃねえか」
「影ちん、もっとなんか文句言って良いよ。俺らのこと嫌いだった頃の話したげてよ。俺その話された時スゲームカついたから、なんか1人だけその鬱憤ぶつけられんの納得いかない」
「いや、別にもう良いよ。前も言ったけど嫌いではなかったし。ていうかなにその理屈」
「や、やっぱ水影っち俺らのこと嫌いだったんスか…!?」
「ねえ黄瀬、私の話聞いてる?」
「当然だろう。俺も自分のしていたことが間違っていたとは思わないが、水影さんから見た俺達がどう映っていたかくらいはわかっている」
「や、じゃあ緑間っちも謝りましょうよ一緒に」
「…………間違ったことをしたとは思っていません。でも、傷つけた自覚はあります。…………そのことは、すみませんでした」
「うっわ不服そ〜…」
「緑間ももう良いって。ていうか謝られたらそれ、全部私にも跳ね返ってくるから。傷…ついたのかはわかんないけど、安全地帯からうるさい小言ばっかぶつけちゃってごめんね。どんどん変わっていくみんなについて行けなくて、慌てて要らないってわかってる一般論を正義のように掲げちゃったこと、後悔してる」
「…でも、冬子さんの正義は、確かな正義だったと思います。当時の僕達はその正義をうまく消化できていませんでしたが…」
「いやテツは完全に冬子寄りだったろ。冬子の正義が理解できなかったのは俺ら5人だけだ。…んで……まあ、今ならあの時言われた冬子にとっての正義も、なんとなくわかるようにはなった」
「青峰…」
「ま、だからっつってあの頃の自分を否定する気はねえけどな」
「うん、私ももう否定する気はないよ。…それを確かめるために、今日呼び出しに応じたし」
「じゃ、せいぜい試合で驚きすぎて心臓止まんねえように覚悟しとくことだな。…知ってたか? バスケってさ、やっぱ何よりも面白いんだぜ」
「………そうだね。私も好きだよ」
「わーい、水影っちが見ててくれるなら俺もいつもより頑張りますか! あ、でも俺…水影っちに嫌われてるんだっけ…」
「いやだから嫌ってないってば」
「一番強いのは俺のチームです。水影さん、3年前の醜態で止まった記憶を今すぐ塗り替えてください」
「い、今すぐ…は無理かな…とりあえず高尾君との連係プレーは楽しみにしてます」
「はい」
「そういうことで、"最初から"俺達のことを誰よりも応援してくれていた人が今回は見ている。気を抜くことを許すつもりはそもそもないが、皆、いつも以上に気合いを入れて尊敬すべき元マネージャーにその姿を見せるように」
「言われるまでもねえよ」
「了解ッス〜!」
「わかっているのだよ」
「影ちん、後でまいう棒買ってね」
「冬子さん、見ててくださいね」
「────ありがとう。みんな、楽しんでね」
「すみませんでした、突然呼び出したりして」
「本当だよ。なんなら今もちょっと心臓ドキドキしてるよ。最後の会話が3年前の人格否定合戦だったって自覚はある?」
「もちろんです。…その上で、きちんと謝罪をしたかったので」
「え、赤司までそんなこと言うの…ていうか赤司には一番謝られたくない…」
「なぜですか? 俺はあなたに相当な負担をかけてしまいました。それでも俺達のことをサポートし続けようとしてくれていたあなたを容赦なく利用し、酷い言葉を投げ、出て行かせてしまったんです。正義がどうとか以前に、人としてあるまじき行為でしょう」
「まあそれがいわゆる正論なのはわかるけど…。でも、私は私の価値観が間違ってないと思うと同時に、あなた達の当時の価値観も受け入れられるべき正当なものだったと思ってるんだよ。特に当時の赤司がそれを"是"としたなら、いくら時間が経って価値観が変わろうとも、当時の正解を覆してほしくないかな…」
「水影さん…」
「考え方って変わるものじゃん。あの時は"わかりあえないもの"が"わかりあえなかった"だけ。3年経って、ようやくそれが"わかりあえる"ようになったなら、もうその結果論だけで全部流して良いと思うんだよね。…ってそれっぽいこと言ったけど、本音を打ち明けると私の中の赤司は"俺こそが正義"な怖い後輩のままだから、あんまり自分のこと否定するようなこと言われるとそっちの方が怖い」
「…黒子から話は聞いていましたが…変わりましたね、あなたも」
「親切な人達のお陰でね」
「それって────」
「────冬子さん、そこにいたんですね。隣は────赤司君だね、久しぶり」
「…ええ、お久しぶりです、氷室さん。すみません、大切な彼女さんを突然呼び出してしまって。怖がらせてしまったみたいですね」
「ああいや、こちらこそ…そろそろ開幕式の時間になるからと思って迎えに来たんだけど、会話の邪魔をしてしまって申し訳ない。ちなみに冬子さんのことなら、ずっと君達のことを気にかけていたから…こういう場を設けてもらえて良かったって言ってたよ」
「そういう裏話ぶっちゃけるのやめて…。気になってはいたけど普通に怖かったんだから…。だって改めてお前の言ってることはおかしいって言われたらどうしようって思うじゃん? 何回でも言うけど私達の最後の会話、どう考えてももう二度と修復できない冷戦状態になったまま終わってるんだよ」
「詳細は知りませんけど…でも、彼らがもうそういうことを言う段階じゃなくなった、っていうのは冬子さん自身でまず気づいていたじゃないですか」
「誤解を生まずに済んで良かったです。では…氷室さんの言う通り、そろそろ時間なので、俺はこれで失礼します」
「あ、赤司」
「はい?」
「────応援してるからね、私。最初からずっと」
「…ええ、俺も頼りにしています。最初からずっと」
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