[本日の予定:美しい雪景色の中に佇む氷室の姿は、さながら雪の精のようだった。誰だっけ、春先に彼を捕まえて桜の精と言ったのは。────彼はそもそも、ひとつの季節になど縛られない存在だった。]
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30話
12月21日、夜。
粉雪が暗い地面に粉砂糖のようなグラデーションをかけているのを温かい自室の窓から眺めていると、携帯に電話の着信が入った。
「もしもし」
『水影さん…すみません、遅くに。今って大丈夫ですか?』
氷室だった。
彼への想いを自覚してから約2ヶ月余が経過したが、私の心は相変わらず自覚したあの日と同じくらい高鳴っている。電話越しに聞いているせいで、いつもより声が近く聞こえる。氷室から来る電話は、一番好きだった。
「大丈夫だよ。どうしたの?」
『…明日、東京に行くので』
告げられたのは、東京遠征の話。
11月に一通り行われたWCの予選、我が陽泉高校は難なく…本当にヒヤリとする瞬間を一秒も見せないまま、最後まで勝ち抜いた。本選出場が決まった時には福井と手を取り合って喜んだ。氷室とは電話で『知ってました?』「知ってました」『教えてくれれば良かったのに』「試合結果なんて知りたい?」『ふふ…絶対知りたくないです』なんて会話をした。岡村にはおめでとうと福井を経由して伝えてもらうよう頼んだ。紫原は────相変わらず、私と関わる気を全く見せなかった。
WCの開幕は23日。陽泉の初戦は25日と聞いている。
それでも万全を期して前乗りするため22日…明日の夕方に彼らは発つのだそうだ。
福井はいつものように「お土産何が良い?」とは訊いてこなかった。多分1ヶ月程までに話した「最後の試合を見に行く」という私の言葉を半ばジンクス的に信じているのだろう。
今日だって、いつも通りだった。
「明日のお昼にはもう学校を出るんだよね?」
「寂しいだろうけど1週間程度のことだ、頑張れよ」
「そっちがね」
そんな冗談を交わしたくらい。最後の大会前だというのに不思議なほどいつも通りに振る舞う福井のメンタルに、改めて感嘆する。
「福井からも色々聞いてるよ。まずは無事着いてね」
『はい…。それで…その』
「ん?」
『迷惑は承知なんですが、これから少し…会えませんか?』
氷室のお願いは、昨日視たビジョンを思えばある程度想像できるものではあった。
私はこの後、雪の精をこの目で見ることになるのだ。
ただ…現実的に考えてひとつ問題がある。
"今から"、会う?
良いのだろうか。彼らは今、大事な試合を控えて生活に特別気を遣っている時期のはず。時計を見るともう…23時だ。今から会って彼の翌日の体調に支障が出たりしたら────
「良いよ」
────しかし、どうあったって彼と会う未来は確定事項。
むしろこの時間まで全く彼と会わなかったことの方に私は不信感を持っていたくらいなので、ようやくその時が来たかと安堵すら覚えていた。彼らの健康問題が心配じゃないわけではないが、会うことは決まってしまっているのだから、それを今からどうこう言ったって仕方ない。
「どこで会う? 学校はごめん、ちょっと遠いから…なんか中間地点とかが良いな。警察に見つかっても困るから、静かなところ希望」
そんなことを言いながら、昨日のビジョンを思い出す。
あれは…うちの、最寄駅の景色だ。
『…すみません、どうしても会いたくて、実は水影さんの家の近くの駅まで来てしまってるんです。断られたら終電で帰るつもりでした』
ああ、やっぱり。
「わかった」とだけとりあえず返事をして、部屋着からセーターに着替えコートとマフラーも装備した上で傘を2本持ち家を出る。
それにしても、こんな時間に無理をしてまで会いたいと言ってくれるなんて、一体どうしたのだろうか。何か困ったことが起きていなければ良いのだが。
色々な悪い想像を膨らませながら駅までの道を急ぐ。
人のいない閑散とした駅の前で、氷室はロータリーの柵に腰掛けながら私を待っていた。
街灯が放つ人工的な白色の光の下でも、氷室の姿はいつも通り美しかった。傘も差さずにいるせいで、その綺麗な黒髪に細かい雪の結晶が張り付いているのがわかる。しっとりと湿気を帯びている彼の横顔は、遠目からでも見惚れるに十分な色気を持っていた。
…とはいえ大事な選手の体をいつまでも雪ざらしにするわけにはいかない。
何かここへ来るほどの切羽詰まった心境ならあるいは、と思って念のために持ってきていた予備の傘が、まさか本当に役に立つとは思っていなかった。
「氷室君」
声をかけると、彼の顔は素直にこちらを向いた。曇りのない綺麗な瞳が、心なしか不安げに揺れている。雪が街灯に反射して白く煌めく景色の中、その白を更に反射させる彼の瞳を見ているとまるで幼子を見ているような気持ちになる────それなのにどうしても隠し切れないその妖艶さが幼子の瞳に無理やり併存してくるものだから、矛盾を抱えた彼の体は、なんだかもはや異質なものにすら見えた。
人は人ならざるものに畏れあるいは強い憧れを持つ。
その時私は久々に、彼に初めて会った時のことを思い出した。
強い風が吹いた後に取り残された、桜の精。
あの時は周りを取り巻く淡い薄紅色に包まれて、彼の存在までもが柔らかな輪郭にぼかされているように見えた。物語の中から飛び出してきたようなその美しさに、本物の精霊がいるのかと信じてしまいそうになったほどだ。
今の彼は、雪の精に見える。
湿った空気の中、空からはらはらと舞い落ちる雪の結晶に連れられて、地上に迷い出てしまった雪の精。綺麗なものだけで作られているその体は、まだこのあまり綺麗ではない地面に順応しきれていない。彼の透き通るような黒い美しさは、雪の白と強烈なコントラストを生んでいるのに────いや、夜の闇の方と相性が良いからだろうか────まるで再び、彼自身が風景の一部に溶け込んでしまったような錯覚を覚える。
「すみません、こんな時間に呼び出してしまって。…はは、ストーカーみたいですよね」
「大丈夫だよ。昨日のうちに知ってたし」
「…ありがとうございます、"それ"を視てくれて」
"それを視た"ということは、私がこの時氷室の誘いに応じて駅まで赴くことが既に決まっていた、ということ。
断らないでくれてありがとう。
彼にとっては不確定だった"深夜の呼び出し"を、確定事項にしてくれてありがとう。────そんな声が、聞こえたような気がした。
「俺としては正直流石に断られるだろうと思っていたので、ダメ元でも来て良かったです」
「私は近いし暇だったから良いけど…どうかしたの? こんな時間に、はこっちのセリフだよ。明日から東京に行く人が…」
「だからなんです」
氷室はまるで何かに縋るような目で、立ったままの私を見上げた。傘を差しだすタイミングを失ってしまったのと、差し出したところで今の彼に自力でそれを支えていられるほどの気力があるか疑わしかったのとで、自分の傘を半分傾け、彼の頭に降り積もろうとする雪を除ける。
「東京に行く前に、あなたに一度会いたくて」
福井なんて「1週間程度だからな」と笑い飛ばしていたのに。
氷室はそれが永遠の別れだと言わんばかりの口調だ。
「…どうして?」
どうして、私に会いたかったの?
氷室は何も言わず私を見ていた。誰でも良いけど選手以外で仲の良い人を思い浮かべて、私に白羽の矢が当たったというところだろうか?
「…水影さんに会うと、安心するんです。一番」
しかし氷室は私の予想など遥かに超えて、嬉しいことを言ってくれた。
「…今、不安?」
…そう。確かにそんなことを言ってもらえたことは嬉しいのだが…。
誰かと会って安心したいと言ったその心理の裏に、同時にその原因となった"不安"を読み取らせられ、心がざわついた。
「いえ…不安、というわけでは…。自分の力が試せること、大きな壁に挑めること、そしてチームの皆と同じコートで戦えることを、楽しみにしているのは本心です」
「うん」
「弱気になっているわけでも、ましてや負ける未来を予想しているわけでもありません」
「わかるよ」
「…でも、そうですね…。確かに、少しだけ…」
目の前に控えているのが大切な試合であればあるほど、ちょっとした心の隙間にも不安という悪魔は忍び込んでくる。
それは氷室のような強い人間だろうと関係ない。余程の能天気か傲慢な者でもない限り、選手が試合前に一瞬言い知れない不安を抱えるのは当然のことだった。
────よく見てきていたから、知ってるよ。
「大丈夫、わかったから」
きっとその不安の種は、氷室自身にも言葉にできないのだろう。練習は十分にした。仲間を心から信じている。対戦相手の研究も徹底的にした。できることは、全部やった。
それでも未来が見えないのが勝負の世界。私のように未来視の力を持っているなんていう非現実的なイレギュラー要素でもない限り、どれだけの万全を尽くしても、それは裏切られて当然なのだ。
「ねえ、氷室君」
「はい」
「────手を、取っても良いかな」
それはいつかの夏の日のこと。
東京の小さなホテルで不安に溺れかけていた私の手を取って、氷室は指先だけでなく心まで温めてくれた。
あの日のお返しができるほど、私は上手に言葉を紡げないけど。
「大丈夫だよ、大丈夫」
変に御託を並べて伝わらないよりましだと、いっそ簡潔な言葉を繰り返すことを選んだ。
今発する言葉はどんなものだって根拠がない。
それが最初からわかっているなら、根拠のない"大丈夫"でさえ根拠のあるものに聞こえるように、力強く伝えようと思う。
大丈夫っていう言葉は、別に未来を約束するために言う言葉じゃない。
その時その人を安心させるためだけに使う言葉だ。
何度か反芻してきた自分自身の言葉が、またも脳裏を過る。
でも、これはあの時みたいにネガティブな意味で考えることじゃない。
持続時間の短い薬を処方する気持ちなんかじゃない。
その"大丈夫"が言霊となり、結果論として約束された未来を実現させられるように────そんな祈りを込めて、私はこの言葉を使う。
「私は明日までの未来しか視えない。…それに、たとえ数日後の試合の結果が視通せたとしても、あなたには伝えないと思う。でも────私は、信じてる」
信じてる。
その言葉の不安定さを、私は誰よりも知っているつもりだった。
知っていて、あえて選んだ。
未来は確定している。どう頑張ってみても迎える結末は変えられない。
人が何を信じても、人がどう努力しても、最初から決まっている未来に向かって進むことしかできない。
信仰も、努力も、全て無駄だ。
それでも私は、信じたかった。
いつも大人びている彼の、珍しく年相応な姿。
彼をそうまで不安にさせるほどの恐ろしい力を、この未来というものは持っている。
ならばその未来に一番深く繋がっている私が、誰よりも彼の未来を信じよう。
変えられないとしても。無駄だとしても。
それでも私は、信じよう。
氷室はしばらく私の手を見つめていた。冷え切った指先を温めるどころか、その冷気は私の手にまで逆に伝播してきている。傘は手を握る時に地面に置いてしまったので、今私達は2人とも雪ざらしだ。
「────水影さん」
小さな声で、名前を呼ばれた。そして返事をするより先に、彼は自分の額を繋いだ手にことんとくっつけた。
雪を孕んで僅かに重くなった彼の髪が手の甲をくすぐる。彼の浅い吐息が冷えた指先を温める。その姿は、まるで夏に東京で私の手を包んでくれたあの日を反転して再現しているかのようだった。
「…俺、必ずやってきます」
それは"信じてる"と同じくらい、不安定な言葉。未来を知らない人間が発する"必ず"なんて、"多分"と同じくらい不確定なものだ。
でも、そこに込められている意思には明確な違いがあった。
彼は私の傍にいて、未来がどれだけ不可避なものなのかよく思い知っていることだろう。
それでも"必ず"という言葉をあえて選んだことに、自分と同じ意図を感じた。
変わらないとしても。
無駄だとしても。
それでも、未来を変えるくらいの覚悟を持って、やってきます。
「…うん」
今更になって、氷室が私に会いに来た理由がわかったような気がした。
未来の不確定さを知りながら、それでも未来を信じると言いきってみせることを、きっと彼は知っていたんじゃないかと思う。
しばらく私の手に額をつけた後、氷室はいつも通りの強い目をしてこちらを見上げた。
「ありがとうございます。元気が出ました」
「良かった」
彼の言葉に嘘偽りの様子はない。私も安心して笑みを零す。
「…すみません、少し弱気になっていたんです」
「うん」
「そしたら、水影さんの顔が見たくなって」
「翌日限定とはいえ未来視持ちだもんね」
「違います」
…あれ、違うの?
「別にどんな言葉でも、かけていただけるだけで良かったんです。未来なんてどうでも良いんです。俺は"今"不安になってしまい、そうしたら"今"あなたに会いたくなった。だから"今"会いに来た…それだけです」
…てっきり、彼がここまで来たのは私が未来と一番繋がっているからだ、とばかり思っていた。未来の残酷さを知る私が"それでも信じた未来"なら、彼も少しは明るい方へと信じられるようになると考えたのだろう、とばかり思っていた。
"私"を求められているなんて、思いもしなかった。
「あなたの個性のことは…すみません、あんまり考えてませんでした。言われてからこの人に言われると説得力あるなあって初めて思ったくらいで…」
「…じゃあ、なんで」
「言いませんでした? 会いたかったんです。声を聞くだけじゃ足りなくて、会って、触れたかったんです」
…まるで告白でもされているかのようなストレートな言葉に、否が応でも顔が赤くなってしまうのを感じる。幸い寒さで既に耳や鼻先は赤くなっていたので、ここで頬まで紅潮しようが大した変化はないだろう。
そんなつもりがないとわかっていても、彼の言葉は良くも悪くも私の心を容赦なく刺してくる。
「…私も、会いたかったよ」
だから私も、彼を真似してみた。そんなつもりはないよ、という口調はうまく表せただろうか。恋心故ではなく、可愛い後輩の旅立ちを見送りたかったんだよ、という先輩の親切心に、ちゃんと聞こえただろうか。
氷室は目を丸くしていた。
「…あ、ありがとうございます」
「なに、私がそういうこと言うのそんなに変?」
「いえ…でもそう言ってもらえたのは初めてだったので…」
言われてみれば確かに、いつも誘いは氷室からかけてもらっていた気がする。まあ今夜もそうであることに代わりはないが、私の返事は大抵「良いよ」「わかった」「何時にどこ?」の3種類。彼の言葉への返答としても、自ら会いたかったと口にするのは初めてのような気がする。
今更ながら恥ずかしくなってきた。やっぱり違和感あったかな。気持ち悪いかな。
恐る恐る氷室の表情を窺うと────
「嬉しいです」
彼は、これ以上ないほど嬉しそうに笑っていた。
「…良かった」
なんだかその様子に、こちらの方が毒気を抜かれてしまった。
「じゃあ、そろそろ電車が来るので帰ります。あ、いや、家まで送ります!」
「ふふ…大丈夫だよ、送ってもらってたら電車に乗り遅れちゃう。私はひとりでも帰れるから、行って」
「いえ、女性を深夜に呼び出しておいて一人で帰すなんてことはできません。送ります」
その後も何度か問答を続けた後、このままじゃ口論の最中に終電が行ってしまうというところまで来て、最終的にいつも通り私が折れた。
家までの道中、氷室はそれまでの不安を払拭したがっているかのように、自分がいかにWCを楽しみにしているのかということを話してくれた。火神との念願の再選が叶うかもしれない、IHの雪辱を晴らせるかもしれない────いくつもの"もしも"を並べながら話し続ける彼の様子は、本当に楽しそうだった。
「…私も、見に行くね」
だから、つい。
玄関の前まで来た時、そう言ってしまった。
「え…東京までですか?」
「うん」
当然ながら、私が私ひとりの資力で東京に長期滞在するには限界がある。行けたところでせいぜい1泊程度が関の山だ。
となると、必然的に私が行くのは彼らにとって"明暗を分ける日"────福井に言った言葉を使うなら、最後の試合の日となる、という意図を、彼は今の短い言葉だけで察したようだった。
当然、未来視を知っている彼からすれば、私の上京で"今日が最後の試合の日"になることが試合前にわかってしまう。
────つまり、それが下手に途中の日だった場合、試合をする前から陽泉の負けが確定することに気づかれてしまうのだ。
その言葉の重みに気づいた時にはもう遅かった。氷室は一瞬戸惑うような顔をしていたが、すぐにまたあの好戦的な表情に戻り、
「最後まで、勝ち抜きますから」
と言ってくれた。
慰めに行ったつもりが結局こちらが励まされてしまっている。
一体このしっかりしすぎている後輩をきちんと助けられる日はいつ来るのだろうか。
「ありがとうございました。おやすみなさい」
「こちらこそありがとう。気を付けて帰ってね」
「────水影さん、最後にもう1つ、お願いをしても良いですか?」
軒下にまで入った私に、氷室の控えめな声がかかった。予備で持っていた傘は、断り続ける彼に今度は私の我儘も聞けと言って無理やり渡した。駅でタクシーでも拾うのだろうと思い代金を渡そうとしたが、そこまでは頑なに受け取ってくれなかった。
そこまでの問答をしておいて、更に何か…ましてや氷室の方から他に頼まれるようなことなんて、あるだろうか。
「その…陽泉のこと、応援してくれているのは知ってます」
「うん」
「福井さんが勝って笑う顔が何よりの喜びだっていうのも、知ってます」
「? うん…?」
「でも、どこか一試合…の中の1Qだけでも良いです。どうか、一瞬だけで良いので俺のことを一番に応援してくれませんか」
陽泉というチームじゃなくて。福井という友人のことでもなくて。
自分のことだけを。
どうして彼がそんなお願いをしたのか、図りかねる部分はもちろんあった。
選手として、純粋に自分を一番応援してくれる存在がほしいのかもしれない。でもそんな人なら、陽泉中に彼のファンがいるのだから私にわざわざ頼まなくたっていくらでも得られるはず。
やけに福井を引き合いに出してくるのも気になるところだ。私の中では福井と氷室は完全に別のカテゴリーで同じだけ大切な存在になっているので、優劣をつける時なんて来ないと思っていたのだが。
氷室はわざわざ"福井よりも"という意味を強調しているように聞こえた。
事情は知らないが、それで"好きな人"がより頑張れると言うのなら。
「────言われなくても、一番応援してるよ」
もしかしたら一瞬、福井頑張れって視線を持ってかれちゃうかもしれないけど。
そんな意地悪はもちろん、心の奥にしまっておいた。
氷室は嬉しそうに笑って、「遅くまですみませんでした。失礼します」と一礼してから去って行った。
試合前に選手のメンタルが不安定になるのはよくあること。
この恋心には少々刺激の強い瞬間も多かったが、そんな俗物的なことよりまず第一に、彼自身が心身共に健やかに東京へ行ってくれることを願いたいと思う。
願いたい、と、思う。だけ。
心臓はそんな空気なんて一切読まず、眠るまでずっとバクバクうるさく鳴り続けていた。
寝る直前に見た明日は、福井からのメール。
彼らはちゃんと無事東京に着いたようだ。とりあえず一安心だ。一安心したからいい加減心臓も落ち着いてほしい。
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