「こんなところで大丈夫なんですか?」

「大丈夫も何も俺の店だし。」

全ては俺の手の中だよ、そう言って笑うのはCancer。手は忙しなく皿を洗っている。

「そうですけど。」

「ここで話すことないもんな?でも、大丈夫。俺が大丈夫って言うんだそうだろう?」

その言葉に向かいに座る女はそうですね、と返事をして手元の飲み物を口にした。

「でも、ここ、貴方の仲間が集まるのでは?」

「今日は誰も来ない。それにお前の顔は彼女しか知らない。」

Cancerの発した"彼女"という単語に無表情な女の眉が微かに動いた。

「・・・まだ、彼女がお好きですか?」

女のその質問にCancerは答えない。ただ黙って皿をカチャカチャ鳴らす。店内に客は誰もいなくて二人が喋らなければそこには静寂が待っている。
流し続けていた水を止めてCancerは手を拭く。

「Sadalsuud、何か食べる?活動報告はその後聞くよ。」

「じゃあ、何か甘いものを。」

「かしこまりました。」

奥に進むCancerの背中をSadalsuudはじっと見つめて唇を軽く噛む。最初に"彼女"について質問したときもCancerの答えは沈黙だった。自分の質問に対する沈黙が一番効くというものだ。沈黙がなにより真実を含んでいた。

Sadalsuudは"彼女"の顔を知らない。それに彼女についての情報はCancerからでなく全てFMS内で手に入れた少しのものしかない。

Sadalsuudは背後で聞こえた入店のチャイムを合図に脇に置いたヴェール付きのカクテル帽子を被った。


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