高い塀の上、Ariesは脇に抱えた今日のターゲットをしっかりと持ち直す。今夜、行動を共にしているPiscesの姿を見失ったAriesは彼の体の心配をしつつ目だけで塀の下の様子を確認した。
「おかしいな。」
呟いた言葉は夜に消える。一緒に任務を遂行する奴と離れることなどめったにないのにおかしいと頭の中で再度呟いた塀を飛び降りた。
地面に足をつけると頬を鋭い何かが掠めた。ひりりと痛む頬からしてどうやら頬は切れたらしい。
「ハロー、ダーリン。」
暗闇の向こう、頬を切ったものが飛んできた方から聞こえた場違いな声に目を凝らせば緑の頭がぼんやり浮かぶ。
「野郎にダーリンって呼ばれる覚えはねぇんだけどな。」
「まぁまぁ、そんなこと言わず遊びましょうや。この前お宅の奥様と約束したんだよ。」
ゆっくりと近づいてくる緑の頭の持つナイフが月明かりにきらりと光る。
「ああ、うちの可愛いだろ?」
「そうだな、俺の相方も綺麗だって騒いでたぜ?性格悪そうだけど。」
Ariesは相手のおどけた調子に合わせておどけた調子で返す。こいつは確かFMSのBetelgeuseだっけか。
「夜闇の中ナイフを投げてくるような奴よりは性格いいと思うんだがな。」
「ははっ、確かに。」
ターゲットは手に入れた、どうにかして帰りたい。Ariesが回りを見渡す。Betelgeuseは普段茶髪のRigelという男と行動しているはず。それがいないということは多分Piscesが相手をしているのだろう。
「戦わず逃げようととかすんなよ?まぁ、俺はその手に持ってるものが欲しいだけだからそれをくれるなら戦わなくてもかまわねぇけどな。」
「まさか、苦労して手に入れたんだ。渡せねえよ。」
「でしょうね。」
AriesはPiscesの身を案じながら抜け道を探る。
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