仲直り仲直り
宇宙科の教室の近く、最後の角。東月先輩は私から手を離してさぁ行っておいでと立ち止まった。
「ここからは椿ちゃんと木ノ瀬君の問題だ。」
「東月先輩、あ」
「お礼は仲直り出来たら聞くよ。だから、早く行きなさい。」
「はい。」
東月先輩が握ってくれていた手が熱い。梓と喧嘩みたいなことをするのは始めてだからとても怖いけど、やっぱり梓は大切な幼馴染みだからぎくしゃくしたままは嫌だ。
「木ノ瀬君を呼んでくれますか。」
扉に一番近い席に座る男子に頼めば、お、堺だ。噂通りでかいな、と教室の視線が私に集まった。
「椿」
頼んだ男子が梓に声を掛ける前に梓は早足で私のところまで来て私を押し出すように教室から出て扉を閉めた。
「どうしたの?」
「梓、ごめんね。」
私が謝ると梓はまた不機嫌な顔してなんで謝ってるの?とまた聞いてくる。
「最近、私自分の話ばっかりで全然梓の話聞けて無かったし、それにきついしゃべり方もしちゃったから。」
自分でも分かるくらい抑揚のないしゃべり方でまくし立てるように言い切った。梓にちゃんと気持ち伝わったかな。
「はぁ」
どぎまぎする私から視線を外して梓は大きくため息をつく。
「今日のは、僕が悪いでしょ。だから僕が謝るよ。ごめん。あんまり椿が東月先輩に夢中だから幼馴染みとしてちょっと嫉妬しちゃったんだよ。」
にやりと意地悪に笑いながら梓がまた私と目を合わす。
「む、夢中って…!と、と東月先輩はお友達で…」
慌てて訂正すれば梓に分かってないなと言われた。
「東月先輩の話してるときの椿、珍しく笑ってんだよ?気付いてなかった?」
思わず頬に手を当てる。わ、笑っているだと…?もしかしてニヤニヤしてるって意味か?そうなのか?
「さあ、僕との仲直りはこれで終わり。あそこの角で怖い先輩が僕を見てるから早く行っておいで。」
梓にくるりと身体の向きを変えられ軽く背中を押された。その先には東月先輩がいつもの笑顔で立っている。
「じゃあまた夜にでも電話するよ。」
「ありがとう、梓!」
振り返って教室に戻っていく梓の背中にお礼を言ってから私は東月先輩の元へ走った。
(本当に椿は昔から鈍感だな。)
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