すごい人
私はひとつ大事なことを忘れていた。私、すっごい方向音痴だ!今までがむしゃらに動かしてた足をぴたりと止めて冷静に当たりを見回す。
…ここ、どこ?
やややややばい!どうしようどうしよう!!私今どこに居るの?やだやだ、入学してもう結構経つのにこの学校よくわかんないよ!
私は脳内パニックの状態でいつものように携帯を出した。梓の番号を呼び出してふと思う。梓は出てくれるだろうか?やっぱり困ったら僕に縋るんだね、今回は自分でなんとかしなよ?とか言われそうだ。梓に謝りたい。だけど今の状況は全てにおいて不利だ。携帯の画面を見つめたまま立ちすくんでいると大きな手にパタンと携帯を閉められた。
「!?」
顔を上げるとそこには息が上がった東月先輩が居た。
「東月…先輩?」
「はぁはぁ…また、木ノ瀬君に、連絡、しようと、してた、だろ?」
眉を下げながら笑う先輩は途切れ途切れにそう言った。
「俺も、居る、のに困ったら、頼って欲しい、のに。」
出会いもそうだった。東月先輩はすごい。誰も気付いてくれないのに、梓でさえSOSを出さなきゃ気付かないのに、何も言わなくても私が困ってることに気付いてくれる。
「木ノ瀬君と喧嘩したのか?」
息を整え、優しく撫でながら聞いてくれる東月先輩はいつもの笑顔で「それより今は迷子なんだよな。」と言って私の手を引いて歩き始めた。
(先輩、梓と仲直り出来ると思いますか?)
(大丈夫。出来るよ。)
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