意地悪の理由

 
しばらくすると廊下の向こう側に暗めの茶髪が見えた。ドキドキする胸を気にしないようにしながら東月先輩に近付いた。

「椿ちゃん!」

私に気付くといつものように優しく笑う東月先輩。手を上げる先輩に合わせて私も少し手を上げる。

「待ったか?」

「いいえ」

「それは良かった。」

よしよしと撫でられて私の胸はきゅんと鳴る。お兄ちゃんが出来たみたいだ。しかしそれと同時にさっきの梓がちらついた。

『下心を持って』

梓が意地悪なのはいつものことだ。自分の思っているように世界は回るって思っているような自信家な上にちょっとナルシストだし。ぱっつんだし、背は低いし、嫌味なくらいなんでも出来ちゃうし、努力なんてしたことないだろうし、かっこいいし、頭良いし、誰にも助けて貰えない私をいつも助けてくれるし…梓なんて、


「東月先輩、私、ちょっと梓に用事あったの忘れてたんで先に行っててもらっていいですか?」

「え?」


驚く東月先輩を置いて私は宇宙科の教室の方へ走り出した。さっきのは私は悪くなかった…と思う…けど、最近私は梓の話ひとつも聞いてあげてなかった。東月先輩との話ばかり聞かせて梓の話は聞いてなかった。小さい頃から天才だと言われて育った梓は私が聞かなきゃ嫌だったことも辛いことも話さない。弱い部分は自分から見せられないんだ。きっと梓も入学して従兄弟が居たにせよ色々あって疲れてたんだ。パンクしちゃいそうだったんだ。なのに私まで梓を無視して自分の嬉しいことばかり話ちゃってたから。

私はひたすら宇宙科に走った。










ひとつ私は忘れてた





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