授業も終わり、寮に帰ったら週末に買ったばかりのゲームをしようと考える私はご機嫌だった。しかし、その浮かれた心が祟ったのか私は渡り廊下にあるほんの少しの出っ張りの存在を忘れていたのだ。

「う、ぇあ!?」

足の力ががくんと抜けてついでに言葉の気も抜けてかっこ悪い声が出る。あ、やばいこける。そう思って強く目を瞑ったけれど、覚悟した痛みはやってこなかった。そっと目を開けると私は錫也に支えられていた。ちなみに後ろから腰を抱えられている、そんな状況だ。

「名前、大丈夫か?」

「うお!錫也!!錫也のお陰で大丈夫です!」

腰はヤバイ!この肉付きのいい腰はヤバイ。一刻も早く離してもらわなければと手をぶんぶんふりながら体の無事を伝える。

「ちゃんと前見ながら歩かないと危ないだろ?」

「ごめん!今度からちゃんと前見るから!だからとりあえず手!!手を腰から離してぇぇえ!!」

私の思惑とは反対にゆるゆると腰に回された手は強くなっていくので大きな声で頼むと錫也が後ろでははっと笑った。

「・・・なぜ笑う・・・。」

「ごめんごめん。名前が真っ赤であまりにも可愛いから。」

状況からして必然的に私の耳元で錫也が喋る、そんな感じになっていて錫也の優しい声に私の顔が更に熱を持つ。

「・・・か、可愛くなんかない・・・」

頭の中が錫也の手の暖かさとか錫也の声とかでゆっくりと侵食されていく中で私は絞るように反論した。しかし、錫也はまた笑って今だに私の腰に回る手を更に強めた。もうすっかり錫也の腕の中に納まった自分の体から早い鼓動がばれるんじゃないかと思ったとき、錫也が口を私の耳元にさっきよりもっと近づけた。

「可愛いよ。名前はいつだって世界一、可愛い。」

「っ!!?」

耳元で囁かれた甘ったるい言葉は錫也に侵食された頭をじんと痺れさせる。



貴方が沁みます

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