スーパースター[2] 綾 「美緒理…しばらくアタシに近づかない方がいいかもしれない」 美緒理 「えー!?なんでー!?」 綾 「だってあの騒ぎでしょ?そんなに有名な人だなんて知らなかったとはいえ、ここまで騒がれたら美緒理にまでなにかしらのとばっちりが…」 美緒理 「何言ってんの。そんなの覚悟できてるよ。だって美緒理はスーパースターの彼女になる予定なんだから、こんなの日常にできなきゃでしょ」 綾 「…あ、あぁ、はは…そうね」 美緒理 「そうそう」 なんとも頼もしい。 大きく胸を張ってアタシの提案を却下した美緒理は、満面の笑顔で「それで?どんな感触だったの?」と続ける。 正直そんな場合ではなかったのだから答えようがないのだけど、とにかく大きな手だったとだけ伝えると「いや〜ん!うらやまっ!」という声と共に大きく身を捩った。そして妄想のスイッチでも入ってしまったのか、恍惚とした表情で目を閉じた。 美緒理もアタシ以外には友達がいない。 本人曰く、こういう夢見がちなアクションが人を遠ざけるのだと、その理由を語っていた気がするけど、アタシから見れば、とても正直で可愛らしい。確かにアクションは大きいけど気にならない。 いつも目立たぬように化粧を施し、髪も爪も制服の着こなしも、校則にぎりぎり引っかからないラインを維持しつつ、だけど見るからに可愛らしい風貌。 身動きするたびにふわりと香ってくるフローラルの香りはいったい何なのかわからないけれど、香水なんか使っていないのは知っている。それだけでも充分に女子力を感じるのに、毎日なんだかキラキラして見えるのはそれだけ完璧に自分を仕上げてきている証拠だ。毎朝毎日どれほどの努力をしているのか…それだけに、言っていることが本当に本心で真剣で本気なのだと感じ取れる。 でも…そうか。そんなに好きなんだ。 ただ申し訳ないことに、アタシは正直、恋愛どころではないのだ。 応援はするけど自分には関係ないと思っているのも事実。そんなアタシが美緒理よりも先に先輩と接触してしまったのはいったい何の悪戯なのか。 いまだ身悶えるように妄想に浸っている美緒理を眺めていると、突然教室の空気がざわついた。 ざわついた空気の謎を確かめようと無意識に顔を廊下の方へと向けた瞬間。すぐ横に立ってアタシの全身を上から下に眺めている男子が視界に入って身体が急激に仰け反った。 ??? 「どんな女子かと思えばこれかぁ」 綾 「!!!?」 驚いて仰け反った勢いで椅子から落ちそうになったじゃないか。いったい何?これ?これって? ??? 「眼鏡。おかっぱ。スカートひざ下15センチ…やっぱダサ子じゃん」 美緒理 「はっ!わっ!富田先輩!?」 綾 「え?」 美緒理 「ほらっ森先輩と一緒にいたでしょ?いつも一緒にいるんだよ!富田先輩だよ!」 綾 「え?…え?」 広夢 「ん〜?キミ可愛い!俺のこと知ってくれちゃってんのね?キミなら広夢くん♪って呼んでもいいよ♪今度遊ぼー♪」 美緒理 「え?え?いえ、あの、ご、ごめんなさい」 広夢 「ノー!!フラれた?俺フラれた?何敗めよ!マジ無理だし聞いてねーし!」 綾 「????」 状況が呑み込めない。 いきなり現れて目の前で美緒理をナンパして途端にフラれて頭を抱えているこの人いったい何。 綾 「え…っと…」 ひと呼吸置いてから、落ち着いて確認してみるととても派手な風貌の…上級生だ。森先輩と同じ色の校章が申し訳程度にシャツに取り付けられている。 アシンメトリーの長い前髪で顔が半分見えないけど、しっかりとセットされた髪はまるでヘアカタログのように完璧。スラックス以外はモノトーンで統一された私服、ピアスにブレスレットにネックレスもなんだか、父が見ていた雑誌に掲載されていそうなものだ。 そう…ウチの店によく出入りしているタイプの派手でちょっと悪そうな見た目。見慣れているとはいえ、こういう態度で絡んで来られるとちょっと困る。 見た目オシャレで少し悪そうなその人は、美緒理にフラれてかきむしった髪を徐に整えて「ふう」と溜息を吐くと、再びアタシへと目線を戻した。 広夢 「ってちげーし。俺はね?慎ちゃんがナンパした子がどんな可愛い女子なのかを確認しにきただけなんです。なのにまさかの地味子さんでダサ子さんだなんてショックでかすぎて思わずお友達ナンパしてしまったわ」 綾 「…は?」 (…てかナンパって) 広夢 「は?っじゃねーよウケる。キミさっき慎ちゃんに頭なでなでされてたでしょ」 綾 「…え、いや、厳密には触られただけというか」 広夢 「ドライか!そこは撫でられちゃったぁ♪って喜んどけよ」 綾 「…」 ドライで悪かったな。 地味でダサくても誰にも迷惑かけてねーよ。 そう思った瞬間、また教室中に悲鳴が轟いた。 今度はなんですか。 Contents← Novel☆top← Home← |