ガチなやつ[2]



ヒロ
「ねえねえ綾ちゃんこれ見てー!超かわいくない!?ヒロさん買ってきてあげたのー!着てみてよーぅ!」


「…」

皓市
「…」


 先ほどの騒動のせいで客が居ない状態の店内はシャッターを下ろし閉店状態で放置。せっかく開けたスタジオ側との連絡口も閉ざし、御用の場合はインターホンで知らせてもらうようにして奥へ引き上げたはいいものの。これでは本当に営業妨害だ。今日の売り上げは父に舞い込んだアレだけということになってしまうじゃないか。

 リビングの2人分のダイニングチェアには父とヒロさんが座っており、アタシはその横に立った状態でいる。悲しきかな、唯一立っている筈なのに二人を見下ろせないのが悔しい。

 それはそうと、カリスマが見せたかった物とは。見るからにパンキッシュでタイトなデザインの派手な衣装だった。ちなみに、色々な場所をどうやって隠せばいいのかわからないくらいに布が少ない。辛うじて赤いチェック柄やレースがあしらわれている辺りはそれなりの可愛らしさは感じるけれども。


(ってかこれは服と言っていいのだろうか)


 確かに可愛いと言えば可愛いけれど、そんな衣装で人前に出てお仕事なんてできる気がしない。

 カリスマは絶対何か勘違いしている。アタシが何のためにこんな恰好をしているのか知らないわけではないのに、まるで趣味を共有している仲間であるかのようにウキウキとしているのだから。


皓市
「お前な。マジでいい加減にしろよ。こんなぺらっぺらしたもん着せて、飢えた男共の前に年頃の一人娘を放り出せってのか」

ヒロ
「えー?だって可愛くなーい?このキレイな金髪にはこういうのが似合うのにー」

皓市
「似合う似合わねーの問題じゃねぇんだよ。今のこの状態でさえ俺は納得してねーんだからな」

ヒロ
「うーん…確かに今日のお洋服はちょっとバランス的な何かが…変かも?」

皓市
「そういう事を言ってんじゃねぇっつってんだろが!頭湧いてんのか!」


「はいはいはいどうどうどう。ヒロさんもちゃんと話聞け」


 テーブルをバーン!と叩いて立ち上がり、父は今にも掴みかかりそうな勢いだ。

 カリスマは「えー??」と呟きながら、何故父がこんなにも怒っているのかまったくわかっていない様子で首を傾げているし、会話が成立しないということがこんなにも問題をややこしくしてしまうのかと妙に感心する。

 そもそもこの険悪さの原因はアタシなのだが、何故自分が仲裁にはいらなければならないのかは謎である。



「あのねヒロさん」

ヒロ
「なぁに?」


「ヒロさんが、金髪のちっちゃい女の子が大好きなのは知ってる」

ヒロ
「うんうん」


「だけど、アタシはこういうのあんまり好きじゃないんだ。っていうか自分には似合わないと思ってるから、これも着るのは無理」

ヒロ
「えーっ!!!?」

皓市
「好きじゃねーならやめりゃいいだろうが」


「そんなこと言ったって、赤字続きでウチの家計は厳しいんだよ」

皓市
「それとコレとは何の関係も」


「無いわけないだろ。アタシがコレになってから客層は少し変わったけど売り上げは多少なりとも上昇したわ」

皓市
「…」


「恥を忍んでやるからには理由があるんだよ。心配してくれるのはわかるけど」

皓市
「…すまん」


「謝らない。そして凹まない。今月の売り上げトップはこうちゃんです。頑張って」

皓市
「う、うっす」

ヒロ
「ねぇ?」


「なに?」

ヒロ
「本当にコレ着てくれないの?」


「着れるか。てか彼女にでも着てもらってください」

ヒロ
「うー…」


 そもそも、アタシにとってはどちらの言い分もどうでもいいし、聞き入れるつもりもないので論外。そして今考えるべきはそんな事ではない。

 先ほどカリスマは、先輩二人の目の前でアタシの名前を暴露した。それが問題だ。

 名前が知られている可能性が低いとしても、富田先輩があの状態で何も耳に入っていなかったとしても、森先輩に関してはもっと慎重に対応しなければならないと思うのだ。

 二人が大人しくなったのは良い事。だけど問題は何も解決されていない。


ヒロ
「あ、そういえばぁ」


 カリスマが何かを言いかけた時だった。

 この場に居る誰のものでもない声と共にアタシの肩が掴まれた。


(あ、しまった)


 気づいた時には再び、足元に転がる男子の姿。


(え、なんで)




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