あたしが嫌いなあの人は、ここのところあたしに付きまとう。
「なんだお前、今頃気付いたのか」
さも当然のようにけろっとした顔で言ってのけた幼馴染みは、お昼ご飯であるお弁当をおいしそうにかき込んでいた。
「1000ベリー」
「お前の弁当にそんな額犯罪だバカ野郎」
「借金取りさんここにパウ「よせバカ!!」
パウリーの手があたしの顔半分を押さえつけるから、あたしの訴えはふがふがと変な空気音を立てるだけだった。パウリーの弁当の世話は、給料日前のジリ貧期間の当たり前になっている。ウォーターセブンの頼れる職長が餓死寸前なんて醜態は幼馴染みとして見ていられない、それだけだ。
はぁー、とため息をひとつ。同時に隣でパンッ、とパウリーが手を合わせる音がした。
「ごちそうさん、助かった」
「ねぇ、パウリー」
「なんだ?」
「ルッチさんって、なんであたしに付きまとうんだろう」
「…知るかよ、そんなの」
「ルッチさんって、変態だよね」
「なんだお前、今頃気付いたのか」
食べ終わった弁当箱をきちんとバンダナにくるんでいる仕草は、とても同じ手でロープを引き上げている手には見えないくらい優しかった。
「一昨日なんか、『…乳輪がうずく』とか言ってた」
「きめぇな」
「昨日は食事に連れてかれた」
「お前ついてったのか?」
「おいしかった」
「…お前それ」
「エムがルッチの話をしてるッポー!」
「!!」
「ルッチ…ッ!お前どっから聞いてやがった!」
「パウリーのバカがむさぼる弁当をいつ奪い取ってやろうかと「最初からじゃねぇかよ!」
ほら来た。
「パウリーも女とこそこそ密会とは、よっぽどハレンチだな」
「誰がハレンチだてめぇー!」
「その弁当は愛妻弁当のつもりか?」
「るっせぇな!エムはただの幼なじみだよ!」
ルッチさんはふざけているのか、それとも大真面目なのか、どちらにせよ、今日もタンクトップにサスペンダーの筋肉ルックが目に悪い。
「じゃああたしはこれで…」
「クルッポー、なら明日からはルッチの弁当を作ってこい」
「はァ!?」
「は?え?」
またよく分からないことを言い出した。
かと思えば「エムはルッチに貸しがあるだろう」なんて耳打ちをしてくる。少し考えて月曜の暴漢のことに行きついた自分にがっくりくる、とことん弱みを握られたものだ…。
「お前な…!なんでエムがテメェの弁当を…っ!」
「………分かりましたよ…」
「なんでお前も了承してんだよ!」
…パウリーの弁当を作っている時点で手間は同じだ、一つも二つも変わらない。ルッチさんみたいな人は嫌いだが、確かに恩もある。まったく、面倒を抱えてしまったと溜息が漏れる。
「…じゃあ、あたしは会社に戻るんで」
「また来い」
「じゃ、じゃあな!」
「ふぅ…、パウリー」
「あァ?」
「ルッチはお前にエムを譲る気はないぞ。クルッポー」
「ゆず…っ?!…ってめぇー!!」
なんだか心なしかルッチさんのペースに引き込まれている気がするが、…これは気のせいだ。帰り道、そう言い聞かせてヤガラに乗り込んだ。
木刀腰にサースデー
三角関係なんてドラマチックなもんじゃない
END