今日はうちの会社の定休日。
「…どうしてここに」
「バカヤロウ!エムに会いに来たに決まってるだろう」
マッチョの肩に留まる鳩にバカヤロウって言われました。
低血圧なのか何なのか、朝はどうにも弱いのだけど、今日はなぜかすんなり起きることができた。仕事もないのに身体だけは定時に目覚めようとするのだから、溜まっていた洗濯物を干したりしたり掃除をして新聞を読んだりしていたら、あっという間にお昼を少し過ぎていた。
天気がいいのだ、やることもない。そうだ、昼食をどこかで食べて、ついでに散歩に行こう。今日は目に優しい街並みや風景を楽しむんだ。今日は仕事はお休、み…だ。
「随分とお寝坊さんなんだな。クルッポー」
「………いつから居たんですか」
「ルッチは9時ごろからここでずっと待ってたんだッポー」
違う、なんであたしの家を知っているんですか。
ここのところ、取引先のお偉いさん(だろう、仮にも職長さんなのだから)に目をつけられた。あたしは営業職なのだから、嫌われるよりはマシかもしれないが、現状これは嫌われた方がいっそ良かったんじゃないかと思いたくなる状況である。プライベートまで介入されては堪ったものではない。
「ルッチさん、こういうのを」
「腹が減った、飯を食いに行くぞ」
「…」
さすがというかなんというか、町一番の大企業のお偉いさんの懐は違った。テーブルマナーも完璧、送迎付きでちょっといいお店のおいしいご飯をただで食べさせてもらえて普通なら文句ないところなのだろう。残念ながらあたしは文句たらたらだ。ランチはおいしかった。
「…」
居心地の悪さは半端じゃない。これが恋人同士なら言葉なんかなくてもその時間が至福だと言えなくもないのだろうが、如何せん口を開くのはメニューを頼むときくらいで、このお偉いさんは食事中も終始だんまりを決め込んであたしを放っておくときた。堪りかねてあたしの方から「今日はお休みですか?」「ルッチは半日有給をとったんだ」「…そうですか」と別段生産性のないコミュニケーションを図ろうとしたくらいなのに。
この人は、一体何なんだ。
「エム」
「っ…は、い」
かと思えば帰り道になって急に話しかけてきて。こっちがしどろもどろってしまうではないか。
「好きな男はいるか」
「……いくら職長さんでも、そういうプライベートなことは」
「これはプライベートじゃないのか?」
「うっ…」
プライベートだなんて理由を持ち出すくらいなら、初めから誘いに乗ってついてくるなとでも言いたいのだろうか。突然押しかけて面食らってるところをつれていったのはそっちだろう!とは、言えない。どうやらこの人はあたしに逃げ道を残す気がないらしい。
気が付けば家の前、一応ランチのお礼に頭だけ下げて、
「ポッポー、好きな男はいるのか」
「…いませんよ」
「まぁ、いたところでルッチには関係ないがな」
「…なんでそんな、自信あるんですか」
「ここの人間と地声で喋ったのはお前が初めてだ」
「…だから、なんなんですか」
そうやってそのギャップを鳩のせいにする。
中身まで筋肉バカでいてくれれば苦手なタイプで済むのに、この人は何か余計なんだ。
「ルッチはエムに惚れたんだ」
「…」
「必ず俺の虜に」
「あたし、ルッチさんみたいな人嫌いです」
・・・
「……るるるルッチはそんなこと気にしないッポー」
宣戦布告のウェンズデー
…こんな見た目で意外とナイーブ?
END