「大好きだぞクルッポー」
「はいはい」
「ルッチは本気だッポー」
「うん分かった」
この人、苦手だ。
「ルッチが?」
「うん、しつこい」
カリファはあたしの話を聞いてくれながら手元に抱えた書類に目を通していた。あたしは船大工たちが使用している工具の下請け会社に勤めるごくフツーの一般市民。アイスバーグさんや職長たちのことも、一般市民並みにすごいとは思っているけど、ひとつ違うのは
「あたし、汗くさい男嫌いなの」
「エムはちょっと変わってるわ」
あたしはちょっと前に流行っていた(らしい)草食系男子というか、文学系男子の方が好きなのだ。ひょろっとしていて、どちらかといえば可愛い方がタイプ。体育会系の元気の良さというか、平たく言うとタイルストンみたいな男の人は好みじゃない。
「それはタイルストンに失礼よ」
「ごめんなさい」
「うおー!エムは俺に何を謝ってるんだー?!」
「うるさいわ、セクハラよ」
「(カリファが言っといて)」
カリファは目を通し終わった書類をあたしに渡した。発注の書類の確認が終わったのだ。
「ルッチはそんなに暑苦しいタイプの男じゃないわよ?」
「性格はどうだか知らないけど…見た目」
タンクトップに浮き上がる隆々しい肉体、あの胸板と二の腕が気持ち悪いのだ。だいたい白タンクトップにサスペンダーって、今どきお父さんもそんな格好はしない。
「関わるのも嫌だから話は聞き流してる」
「ルッチは本もよく読むし博識よ」
「カリファはあたしとルッチさんにくっついてほしいの?」
「ええ、面白そうだわ」
「やめてよ…」
とにかく嫌なのだ。もう、生理的に。
「(げっ…)」
「今エムはルッチの顔を見て『げっ』と思った顔をしたッポー、ルッチが泣きそうッポー」
ハットリが悲しそうな声で言った。つまり、それはルッチさんの声が悲しそうだということなのだろうがあたしの顔は反面、引き攣るばかりだ。やっと仕事が終わったと思って秘書室を出たのに、今日の神様はあたしが気に入らないらしい。
「待ち伏せですか…」
「夜道は危ない、送ってやるッポー」
「いいですよ」
あなたがついてくる方があたしにとってはよっぽど危ない。ストーカー的な意味で。だいたい夜道って、まだ夕方だし。
「仕事は終わったんですか」
「出来る男は残業するような仕事は残さないッポー」
「…(この自信過剰なところも)」
嫌いだ。
本当にいいですから!と言って彼を振り切る。カリファから受け取った発注書類は明日会社に出社するときに持っていくために封筒に入れたままかばんにしまった。夕飯の支度は…材料はあるかな、このまま直接家に帰れそうだ。
カツカツ
「…?」
カツカツカツ
「…」
カツカツカツカツカツ
「…ルッチさん、ストーカーは」
犯罪で、す…よ……?
「え、誰…」
振り返ってみたら、あのムッチリタンクトップはいなかった。その代わりに、誰だ、暗くてよく分からないけど、あたしは知らない誰か。手には、ナイフ?
「え、うそ、え」
こっち、きた…っ!
「鉄塊」
………てっかい?
「目を開けろ」
誰の声、だろうか。キン、とナイフが舗装された地面に落ちた音がした。
「怪我はないか」
憂鬱マンデー
最悪な一日からあたしの一週間がはじまる
END