「…何、それ」
「手錠ですが?」
あたしが指差したそれはあたしと竜崎を繋ぐ、手錠。勿論あたしが繋がってるのは竜崎で、まだ月君は本部に向かっている途中。
最初はこの手錠が何を意味するのか分からなかったが、夜神局長達のやり取り中に竜崎が説明してくれた。
「月君と竜崎が手錠をするのは分かるよ」
仮にも竜崎…Lがキラと疑った。監視も兼ねて一緒にいると言うのは分かる。
「なんであたしにも繋がってるの?」
「当たり前でしょう」
ジャラ…と鈍い金属音が持ち上げた腕に重く響いた。
「私が月君と一緒にいてもエムがつまらないでしょうからつけて差し上げました」
「誰が頼んだ?」
「エムのことなんて何でも分かりますよ、嬉しいでしょう?願ったり叶ったりでしょう?あぁ、御礼は濃いめの口付けで許してあげますから」
誰かこの自意識過剰男の大妄想を止めてくれ。
「とにかく外すわよ竜崎、松田さん鍵もらえる?」
「そ…それがエムさ」
「いいですよ」
「え、いいの?」
いつもの竜崎にしてはいやに聞きわけが良い。
「出来るならの話ですが」
「?」
竜崎はフォークを咥えたままイスからひょこっと立ち上がるとポケットの中に手を突っ込んでこっちを見た。
「さあ、どうぞ」
「どうぞって…」
この手錠を外そうにも鍵が無い。竜崎を見ても手に持ってる感じは無い。
「松田さん、これの鍵は…」
「ここですよ」
そう言って竜崎はポケットに入れたままの手をバタバタとさせる。
「ポケット?」
「股間です」
「死ねこのド変態」
「おや、どうしましたか?早く取ってくださいよ、皆の前では恥ずかしい?何言ってるんですか昨日もあんなに」
「勝手にあたしをめちゃくちゃにしないでくれる竜崎」
言葉と同時にあたしの拳が竜崎にクリティカルヒット。竜崎直伝の痴漢対処法が、こんな所で役に立つとは思わなかった。
きっと月君達が帰ってきたら夜神局長がなんとかしてくれる(と思う)。パンツの中に鍵とか隠す変態だもの、勝手に人の事妄想する変態だもの。一緒にいてたまるか、何されるか分かったもんじゃない。
「松田さん、夜神局長達が帰ってくるまで仮眠を取ります」
「え、ちょっ、エムさん?!」
「隣ですから、起こしてください」
──バタンッ
「……はぁー…」
「随分積極的ですねエム」
「竜崎?!な、何で入ってくるの!」
「何でと言いましても」
竜崎は片腕をあげた。
「繋がってますから」
「…………」
まだ外せないのこれ。
「…はぁー…」
いい加減あきらめて休もう、局長たちが帰ってくるのだってすぐだろうし。
「ため息はあまりよくありませんよ」
「…誰のせいだと思ってるのよ」
「さて」
ベットに座ったあたしの膝の上に、もしゃもしゃと掻きあげられた黒髪が乗った。
「ていうか」
「そうですね、松田辺りですかね」
「…何が?」
「エムさんのため息の原因です」
いや、あんたですが竜崎。
「何であたしの膝の上乗ってるの」
「………」
「……寝てるし…」
黒い頭が膝の上で小さく寝返りを打った。長い前髪から、閉じた目の下にくっきり刻まれたクマを覗かせた竜崎の顔。
「…毎日毎日一人で頑張っちゃってさ」
目の下のクマは、彼竜崎の今までの苦労の結果。
一人で世界の何事件に立ち向かって、今キラという最悪の大量殺人鬼を相手にして。…この手錠も、それゆえの物。
「…エム…」
「何?…」
寝言、か。
今だけは彼を甘やかしても良いかもしれない。「エム…さん」
ぎゅっ…と、あたしの腰に巻きついた彼の頭を、そっと撫でた。いつもこんなに素直だったら…本当に好きになっちゃうかもしれないなんて竜崎には教えてあげないけど。
「…ん」
すりすりと顔をこすり付けてくる竜崎にさすがに多少の違和感を感じた。
「りゅ…竜崎…?」
「お尻、柔らかいです」
やっぱり死ね竜崎。
END
おまけ
「痛いですエムさん」
「竜崎なんか知らない」
寝てるフリずっとしてたなんてあたしのときめきを返せ。
「とにかくこの手錠、外して」
「……分かりました」
そっと彼はポケットからこの手錠の鍵と思われるものが出てきた。
「どうぞ」
「…触りたくない」
「なぜですか?」
…答えろと?
「あぁ、その鍵でしたらずっとポケットの中でしたから安心してください」
「は?!」
拍子抜けと共にそんなあるわけも無いことを想像していた自分が恥ずかしくなって体中が熱くなった。
「エムさんが本当に取ってくれたらそのまま襲おうと思ったのですが」
やられた。
「予定変更です」
「は?」
「やっぱり我慢できません、襲わせて頂きます」
今度こそEND
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