「エムさん」
「エムさん」
「エムさん」
「…………うるさいよエル」
「好きですエムさん」
ちっとも集中できやしない。
「あたしたちは来週テストよね?」
「はい私たちは来週テストです」
ダメだ、エルにあたしと同じレベルで話してくれと言っても無駄なんだ、エルは何にも分かってない。
「エムさんを愛しています」
「デートは勉強が終わるまでお預け」
「無理です待てません」
「じゃあ他の子としてきて」
「エムさん以外とのデートなんて時間の無駄です」
「あたしも時間が大切です」
「一日くらい休んだって構いません」
「あたしは構うの」
だからあなたは何も分かってないの。
「…何度も言うけど、あたしとエルじゃ頭の出来が違うの」
「エムさんのお顔はとても可愛らしいです」
もう気にしないことしによう、それが一番良い。
「エムさん寒くなってきました暖房強にします」
「エムさんワイミーが呼んでいるので行って来ます」
「エムさん糖分が足りません一緒にお茶を飲みます」
「…何でそれあたしも含まれてるの」
「糖分が足りないんです、お茶をしなければいけません。エムさん紅茶をいれて下さい」
「一人でやって、冷蔵庫にケーキとアイスティー入ってるから」
「一人では出来ません」
「じゃー誰か呼んで来て」
「エムさん、あったかい紅茶をエムさんと、飲みたいです」
「………テスト来週…」
「私が教えます」
「だから…」
「エムさんは私が邪魔ですか」
…エルがついに拗ねた。だからって指咥えて物欲しそうな瞳でみても無駄よ。
「……あのねぇエル」
「私たちはハウス公認のカップルで」
「邪魔よ」
エルが部屋を飛び出してもうどのくらい経ったかな。
エルの性格だから、否定して欲しかったんだろうけど…あたし本当に今度のテストはまずいんだから、頑張んなきゃ。
ふと窓の外を見ると、もう真っ暗。
…エルがケーキ食べたいって言ってから、もうどのくらい経ったかな。別に心配してるわけじゃないの。
…別に、可哀想だったかななんて思ってないんだから。
………
「…はぁーもう」
トントン、と使ってたノートと教科書をまとめて簡単にストールを羽織ってあたしはエルを探しに行った。
「居ないし」
「どこに居るのよエル」
いつもエルは拗ねると自分の部屋に籠もって毛布に包まったり、時々あたしの部屋のクローゼットの中で体育座りみたいな格好でうずくまったりしてるのに。
エル、あなた一体どこに…
どこに行っても見当たらない彼の姿を探したあたしが行き着いたのは、ハウスの屋上だった。
息が真っ白…寒い。
ストールを自分の肩にかけなおして屋上の手すりにもたれかかる。
「ばかエル。本当どこに」
寒さからあたしは屋内に戻ろうと思ってドアの方に向かう、その時。出入り口の建物の上から白い息が昇った。…まさか、ね。
ここにはもっと小さい頃、エルと一緒によくかくれんぼしたりして遊んだけど、最近はこの場所の存在を忘れてしまうほどになってしまった。
はしごを上りきって、顔を出した時。
「やっと見つけた」
指を咥えいつもの体勢のまま横たわるエルが居た。いつもよりも強く膝を抱えて寝ているのか少し開き気味の唇からは白い息がのぼっている。
「…冷たい手」
一体どれだけの時間こんな場所に居たの?素足にシャツとジーパンだけの格好で、こんなに寒い所に。
無意識に触れた手はとても冷たかった。
「ごめんねエル」
自分の羽織っていたストールをエルにかけてそっとエルの冷え切った手を握った。小さい頃握り返した手が骨張って男っぽくって、とても大きかった。
「エル…」
何でかなんて分からないけど、涙がぽろぽろと溢れてきた。
あの時一緒にお茶して上げられなくて、あの時引き止めずに酷い事を言って、こんな寒いトコに居たなんて、
「ゴメンね、エル」
ギュッとエルの手を握り締めた。
「泣かないで下さい、好きな人に泣かれるのは辛いです」
冷え切った手が握り返してくれた。
「…エル?」
彼はゆっくり起き上がって、あたしの頬を撫でた。
「エムさんの可愛らしい顔は出来れば濡らしたくないです」
泣かないでください、と。
「…さすがに『邪魔』は私も傷付きました」
「…ごめんなさい…」
「しかし私も少し意地になっていた所もあります。すみませんでした」
ストールをそっとあたしに掛け直すと、彼は空を指差した。
「何?」
「ずっと見ていました」
エルが指したのは寒空の上に散りばめられた星。小さいけど一つ一つが輝いていて、本当に綺麗。
「…綺麗ね」
「あの星を見て下さい」
小さな二つの星。
「けして大きく光り輝いているわけではありませが、同じくらい輝いていて、一つの星のようにも見えます」
「…そうね…」
「あの星を見ていてずっと思っていました。私の隣にはエムさんが必要です。居なければ私は、私でなくなってしまうかもしれないか不安になってしまうんです。疎ましく思われることが例えあっても、やはり傍に居てもらわないとダメなんです」
そう言ってエルはあたしの肩を抱き寄せた。
どうしてエルにはあたしの心が分かるのか。どうしてさっきまで感じていた気持ちを優しく包んでくれるの。
「…邪魔なんて言ってごめんなさい」
「はい」
「傍に居てね」
「勿論です」
「愛してますエムさん」
星のように輝きながら、とはいかないかもしれないけど。それでも笑っていられる場所はあなたの隣だから。あたしが安心できるのはあなたの傍だけだから。
星が少し輝いて見えた。
END
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