“世界で一番愛してる”は“世界で一番愛されてる”とイコールじゃないんだ。
「いらっしゃい、お久しぶりですね」
「…こんにちは」
この人は変わってるんだと思う。
「まだ仕事が片付いていませんから、どこかにかけていてください」
目はパソコンの画面にあてたまま私に声をかけて、右手でシュガーたっぷりのコーヒーを飲み干す。
いつ見ても、変わった人。
だるだるのシャツにジーンズ。そのくせ呼ばれる度にありとあらゆるホテルのスウィートに通される。
「こちらでございます」
いかにもな感じの老紳士がお付きなあたりから言っても、多分。や、相当なお金持ちなんだこの人。
「お待たせしました」
「いえ…」
興味がないワケじゃない、だけど所詮、お客と娼婦。干渉はタブー。
自分が嫌になる。
「…ん、はっ…」
この人のことなんて、なにも知らないけど。私なんかが、触れちゃいけないような気がする。
「聞いてくれますか」
服の上からは想像も出来ない、無駄な肉の無い筋肉質な身体。
「…私でよければ」
抱かれる度にその甘さと強さに酔わされる。
「私、知らないんです」
人の、愛し方。
「………」
「変、でしょうね」
「あ、いえ…っ…少し、驚いて」
おもしろい方ですね、なんて言って頭を撫でるものだから思わず、赤面してしまった。
「人に愛されるという経験がないもので」
人との接触が極端に少なかったせいか、結局人の愛し方も知らないまま。
「身体だけ大人になってしまいました」
真面目な顔で、そんなことを言うこの人が、あまりにもいじらしすぎて。
あまりにも、愛しく思えた。
「愛してみたら…いいんじゃない?」
口にしてからの後悔。
聞いてくれと言われただけなのに、返答までして。
「そう、思いますか?」
彼の笑顔が無かったら、きっと謝るしかなかったんだろう。
「やはりそれが、一番良いのかもしれませんね」
苦笑まじりで、私を抱き締めた。
「誰と、愛しあってみましょうか」
口が裂けても言えないよただただ愛してほしいだけなんだ。
END
thank you 江戸物語
←|→