「あのね、エル」
私はわがままだ。
「何ですか?」
あなたが笑ってくれるのは私のためだけでいい。他の誰にもあなたの優しさに触れさせたくない。
ハウスの子供にも、ワタリにも、この世界の誰にも。
「あたし、ここを出ようと思うの」
呼吸が、心臓が、私の世界の全てが、止まった。
「春になったら、出ようと思う」
一人で暮らせるようにならなきゃなんて。
「…ワタリは、なんと?」
「好きにしていいって。援助するって言ってくれたけど、断ったわ」
苦笑いしながら立ち上がって。
「科学研究所の仕事も就けそうだし、あたしもいつまでも甘えていられないもの」
やっと理解出来た部屋の隅にあるボストンバック。
「エルはさ」
「…はい?」
「いつからだと思う?」
突然彼女は質問をして。
「大人って、いつからなんだろうね」
今度はふわりと笑ってくれた。
その質問は一つにはひどく幼いけれど。また一つにはひどく難解な問題だった。
「20歳なんて区切れるものじゃないって分かってるつもりだけど」
だけど、ね。
「子供な恋愛はしたくないの」
独り善がりで、自分本位な勝手な想いで、いたくないの。
叫びたいくらい、哀しかった。
私はひどく子供でひどく自分本位で。彼女に嫌悪をあからさまに突きつけられた。
「…エル?」
気が付いたら力一杯に彼女を抱き締めて。離れたくないと子供のようにせがんで。
あぁ、ひどく自分中心だと。ひどく身勝手な愛情だと思い知らされた。
「泣いてるの?」
「……………」
「聞いて、エル?」
「聞きたくありません」
ぎゅっと、壊れてしまうんじゃないかってくらい強く抱き締めて。誰にも、どこにも、エムさんを渡したくない独占欲。
独り善がりな、私の感情。
「私は子供です。自分本位で、身勝手で、誰にも負けたくない。誰にも、自分の大切なヒトを譲りたくはないのです」
「うん」
「それがたとえそのヒトのためでも、私は離すことは出来ないでしょう」
「うん」
「エムさんを離したくはありません」
全てが砕け散ってしまうような想い。苦しくて、痛くて、たまらない。
「エル、あたしね、エルの隣を支えられるような力になりたいの」
「…………はい?」
「誰よりも子供で、誰よりも独りだったあなたの傍で、あなたを支えられる人間になりたいの」
たとえば、そう、ワタリなんて憧れ。
「エルは子供でいいの」
あたしだけが子供なあなたの傍で支えられるヒトになりたいから。
「あなたの隣にいさせて下さい」
単なるプロポーズじゃないよ?あなたの傍にいられるためのあたしの目標。
END
thank you 江戸物語
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