視線も表情も変えないままあたしは口を動かした。
「どうかしたの」
「エムさん苦しいです」
いきなりあたしの背にもたれてきたと思ったら彼はあたしを腕に収めた。
「…エル」
「はい」
「暑苦しい」
この部屋は常時住み良い温度設定。ホテルの一室なんだから、それもそう。
「私のエムさんへの愛も燃えています」
「それだけが寒いくらいね」
あたしは避ける事さえ諦めて、手元にあった本をまた読み始めた。
「エムさんが私を愛してくれないので苦しいです」
「自分本位なのは良くないことね」
あたしの本を支える腕をするりと抜けるとそのまま彼の腕があたしのお腹の上に乗った。
「あたたかいです」
「暑苦しいくらいね」
エムさんは温かいです、と彼は言うとあたしの髪に顔を埋めた。
「気持ちいいですね」
「…何が?」
ふふっ…と彼は少し照れたように笑うとあたしの身体を抱きしめた。
「温かくて、気持ちが良いです」
「よかったね」
「はい」
甘えるようにあたしの身体を抱きしめるから、彼に包み込まれてるみたいな温かさをあたしも感じる。…今日くらいは抱きしめられてることには触れないであげようかな。
「いい香りです」
「エルは甘ったるい」
きっといつもいつもお菓子ばかり食べてるせい。近くに感じる彼の匂いがあたしを侵食するみたいに広がってくる。
甘い甘い、エルの匂い。
「エムさんは柔らかいです」
「…太ってるとでも言いたいの」
「ありえませんね」
しかしこの肌触りは気持ちのいいものですと言ってあたしの肌が露出している首元に顔をこすり付けてきた。くすぐったいような、冷たい鼻が触れる感覚が、ときどき身体を少しこわばらせる。
一瞬、どきっとするのが自分でも不思議。
エルは何か味をしめたようにその行為をやめようとはしない。
「くすぐったい」
「感じますか?」
…一応、聞く。
「どんな感じに」
「性的に」
人の温かさを知らぬ彼は甘えたで温もりを求める、ド変態。
END
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