「…分かったら早く帰ってくれ竜崎」
「そんな事を聞いて帰れると思っているんですか?是非お逢いしたいです」
「竜崎になんて話すんじゃなかった」
「そんなこと、ミサさんに話すよりも良いでしょう。私はただライト君のファー」
「ライトぉっ!!」
「うわっ?!」
突然僕らの前に現れた女の子は叫びながら月君の胸に飛び込んできました。ミサさんが見ていたら絶対に彼女は殺されていますね。
「…彼女が?」
「あ、あぁ…エム、離れて」
「あ、うんっ!久しぶりライト。また格好良くなったね」
「竜崎」
月君は服装を直すと彼女を私に預けました。
「はい?」
「ライト?」
疑問符を浮かべた。
「これからミサと約束があるんだ、あとは頼んだ!」
これが私と彼女の出逢いでした。
「へー…じゃあ、ライトのキャンパスメイトなんだ?」
「はい、月君とは仲良くさせてもらっています」
近くにあったカフェのテラスで私は月君の預けてくれた女の子とお話をしています。
「でも驚きます。エムさんが月君の従姉妹だなんて」
「でしょ?全然似てないの、性格も容姿も」
ニコニコと可愛らしいえくぼを作りながら微笑むあなたは確かに月君とは違うタイプのようです。月君が惹かれてしまう気持ちも何となく分かりました。
「ですが…」
「?」
「月君は本当に羨ましいです。こんなに可愛い親戚がいらっしゃるなんて」
「あははっ、竜崎さんって褒め上手」
そう言ってパクっとケーキを幸せそうに頬張るあなたはなんて可愛いんでしょう。
「エムさん」
「ん?」
テーブルから身を乗り出してエムさんの頬へ手を伸ばしました。
「エムさんのケーキのクリームはチョコレート味ですね」
掬い取ったクリームを私がぺろっと舐めるとエムさんは初めて顔を真っ赤にして俯きました。
「りゅ、竜崎さん…!」
「私はチョコレートの香りは捨てがたいと思いますが、クリームはやはり生クリームの方が好きですね」
私はそのまま指を咥えながらまじまじと彼女を観察させていただきました。
小柄でクリッとした瞳と少しウェーブのある髪が印象的な彼女は、まさに女の子です。こう言っては失礼ですが私はミサさんよりもずっと惹かれます。
彼女と一緒に居る時間はとても楽しくて、私が彼女を楽しめさせられた自信はありませんが私は彼女と一緒に居れてとても楽しかったです。
日もそろそろ暮れてきたので一度月君の家まで送ることにしました。もうすぐ月君の家が見えて来る頃です。
「エムさん」
「あ、はい。何ですか?」
「月君がファーストキスのお相手なんですか?」
「な、何でそれを…!」
「月君から聞きました、小学生の頃エムさんが」
「いやーっ!やめてやめて竜崎さんっ!」
彼女は私の口を塞ごうと小さな手を一生懸命に伸ばしていました。私はそのままグッと彼女の腕を掴んで引き寄せエムさんの唇に触れた。
「これは味見なんかじゃないですよ」
「な…っ」
「“キスの味って?”なんてもう聞いてはいけません」
「あ、の…りゅ、竜崎さん…?」
「分かりませんでしたか?ではもう一度」
「分かりましたっ!」
私はほんの少し残念に思いながらも彼女の頭の上に手を乗せました。
「キスの味が知りたい時は私に言って下さい。月君が出来ないような甘いのをプレゼントします」
「ねぇライトぉ?」
「何エム?」
「キスってどんな味なのー?やっぱりレモン?」
例えば私と結ぶ口付けはお菓子のような甘い味。
END
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