穏やかな時間が過ぎていました。
私とエムさんしか居ないこの部屋に賑やかさがあるわけではありませんが──エムさんと同じ空間にいるというだけで私は幸せです。
「エムさん」
「何?」
「抱きしめてください」
「嫌です」
「では、抱きしめてもいいですか」
「駄目です」
あぁ…今日もエムさんはエムさんです。そんなエムさんも私は好きです。
「エル、眠いの?」
「…はい?」
突然声が掛かったと思うとエムさんは冷めた私の紅茶をいれなおしてくれていました。
「ぼーっとしてる。疲れてるのね」
「そうですか?」
「うん」
そうかもしれません、ようやく事件も片付いたばかりでしたから。エムさんは本から視線を私にうつすと表情を変えずに言いました。
「少し寝てきたら?もうしばらくは大丈夫でしょう?」
エムさんは、優しい。
「…はい」
「起きたら声かけてね」
エムさんはそれだけ言うとまた目を手元に戻しました。
「一緒に寝ませんか?」
「お断りします」
私はどの程度眠っていたのか分からない。だけれどうっすらと覚えている。
普段は私に対して少し冷たいエムさんが私を見て微笑み。私の髪に触れ、かと思えば少し寂しそうになって私から離れた。
触れられただけで私はこんなにも幸せなのに、なぜそのような顔をするのですか?
心までは分からないから今の私はあなたにそれを聞く術すら無い夢の中。どうせなら幸せなあなたの夢を見せて。
END
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