「出掛けてくるね」
コートの裾を彼は引いた。
「エムさんエムさん」
ほら今日も甘えたな世界の名探偵さんはあたしを求める。
「何、エル?」
「この前の棒付き飴はどこに売っていますか?」
「買ってきてあげるから」
「私もご一緒します」
「…心配だったんですよ」
「分かってるよ、ありがとう」
本人曰く変装は完璧、らしいけど。
「…前、見える?」
「あまり」
そこまで深く帽子を被らなくても良いと思う。むしろ脚光の不審者でしかない。
「…それは帽子を取っても同じか」
「はい?」
猫背のクマ男、それはそれでそれだけで充分怪しい。…けれど、今の彼がそれを隠す必要なんて無いのよ?
誰もあなたをLだと知る人は居ないのだから。
「…少し、眩しいんです」
「え?」
彼は私の隣でぼそっと呟いた。
「あまり外には出ないものですから」
「だから、帽子?」
「ですかね」
なるほど、だからさっきから、帽子のつばから覗く彼の目が細いわけだ。
「ずっとホテルなんかに引き籠もってるから悪いのよ」
「ひどい言いようですね…エムさん」
それが彼の仕事なのだから仕方ないのも分かってるけれど。
あたしが足を止めるとエルも一つ間を置いて立ち止まった。
「どうかしましたか?」
エルはあたしを覗くようにその背を更に縮めた。あたしの手の届くそこまで。
「っんしょ」
「?!」
背伸びして掴んだあたしの右手には彼を覆っていた物があった。放たれた黒髪はタイヨウの陽を浴びてその一瞬、綺麗な光を持った。
「…眩しいです…」
「慣れれば平気だよ」
眩しさから手をかざしたその影に浮かんだ彼はやっぱりいつものクマ顔。…ちょっと、残念。
「…エムさんが残念そうな顔をしているのはなぜでしょうか?」
指を咥えまたあたしの顔を覗きこむエルは少し意地悪そうな顔をしていた。
「…なんでもないよ」
「そうですか?」
エルはあたしの手をひくと突然走り出した。
「ちょっ…エル?!」
後ろ姿しか見えないけれど…エルは楽しそうだった。
「眩しいのは…?」
「そんなのとっくに慣れましたよ」
キミに目眩を起こしそうキミが眩しいなんて言えない。
END
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