short(dn) | ナノ



鋼の心を溶かすには熱い愛を。



「エムさん好きです、愛しています」

「ありがとうございます。仕事をしてください竜崎」



深夜24時近い捜査本部に夜勤の彼女と私だけの静かな空間。かたん、と置かれたシュガーポットがやけに大きな音に聞こえて、見上げればこの世で一番好きな人。笑顔が素敵で可愛いらしくて、つれなくて。



「私だって人間です」


傷付きます。


「ええ、そうでしょうね」



書類です、とまたかわされた事に哀しみをおぼえました。
いつだって彼女は冷静で美しくて、いつまでも私を受け入れてくれなくて。



「エムさん、」



私限界です。



「強引なのはよくないですよ」

「分かっています」



実力行使なんて自分に自信がない人間がすることなのも。ですが、私はもう耐えられません。



「エムさんが好きです」

「知っています」



抱き締めて初めて知ることが出来たスーツの下の華奢な身体つき。



「世界の何よりもあなたを愛しています」

「では、私がキラ捜査を辞めてほしいとだだをこねたら聞いてくれますか」



彼女の口からそんなことを聞いたのは、初めてで。
あまりの驚きに抱き締めた腕の中を初めて覗きました。



「エムさ」

「私はそんな竜崎は嫌です」



至って真面目な顔で、そして少し怒ったような目で。



「私は一番じゃなくて良いんです」



捜査とワタシどっちが大事なの?!でもなく、ワタシを見て!でもなく。
そう言った彼女が不思議でたまらなかった。



「私はキラも犯罪も嫌いです」


だから、お願いです。


「竜崎は私の嫌いなものをみんな捕まえてくれるから」


胸と背中に心地よい圧力。


「私はそういう竜崎が好きなんです」



私はなんて幸せ者だろう。


「私もエムさんが好きです」



世界で一番好きなもの、あなた。
あなたの嫌いなものを捕まえることが私の愛になるのなら、それほど分かりやすいものはない。

不意にモニターに表示されている数字が目に入る。
あぁ、そうだ。



「知っていますか」

「何をですか?」

「年越しに恋人同士がすることです」



少し考えるようにしてすぐにうっすら赤くなって。



「ここは日本です」

「関係ありませんね」



23時59分58秒。





私は世界で一番幸せな人間です。





END


12月31日は旧サイトM's TRICKの誕生日でした。