「さあ……私を殺してみろ!」
あたしはその言葉を聞いても微動だにしなかった。ただ胸の奥の方がちくりとしただけ。
「L、ワタリさんから連絡。身代わりの犯罪者の心臓麻痺による死亡が確認されたって」
彼は振り向きもしない、手をついて床に座り込んだまま。一時間前に用意した珈琲は一滴も減らないまま冷たくなっていて。電気もつけずに真っ暗な部屋の中でLはパソコンの光だけを浴びていた。
「そうですか」
普段なら電気くらいつけなさいと言うけれど、今の彼には蛍光灯の光すら眩しすぎる。
「お疲れさま」
「いえ、大丈夫です」
Lだってやっぱり人の子でしかない。
「彼は犯罪者です」
「そうね」
あたしの耳と目が悪くなっているのではないとすれば。そう、彼は。
「今までにも私は、たくさんの人間を殺してきました」
「あなたが手をくだしたわけじゃない」
同じようなものですよと彼は小さく呟いて。冷たくなった珈琲を口に運んで一気に飲み干した。
「たくさんの凶悪殺人鬼も、私自身も。事件の解決手段ならば殺人もいとわない人間です」
Lの声はいつもと変わることのないLの声だけれど。あからさまに、いつもと違ったもの。
「悔いたこと」
「悔いたことなどありません」
嘘、ばっかり。
「…エル」
そっと彼を後ろから抱き締めた。
「エムさん」
…仕方ないの。
彼は嘘をつくことでしか彼を守れないから。分かってる、仕方ないの。
「必ず、キラを捕まえます」
曇りのない低い声がそう言った。
「うん」
「犯罪者だろうと、大量殺人犯に変わりはありません」
「ええ」
あたしに言ってるんじゃないってことくらい分かってる、彼は彼自身に。
「正義は必ず勝ちます」
言い聞かせるように、はっきりと言っていた。
「……エムさん」
「嫌よ」
「まだ何も言っていません」
あたしはふふっと笑って、彼の体を抱き締めた。
「あたしはエルについていく」
「危険です。あなたを、こんな危険な事件に巻き込むわけには絶対いけません」
あたしにそんな心配は1ミリだってないわ。
「エルが正義だから」
「……?」
彼は初めてあたしに目を向けた。目があったときの彼は、あたしを不思議そうに見つめていた。
だからあたしは、笑ってあげた。
「エルが正義なら、負けることなんて怖くないもの。あたしもエルも絶対に、死なないわ」
だって必ず正義は勝つんだもの。
「…苦しかったら無理をしないで降りると、…約束してください」
「いいよ。意味無いと思うけど」
何があっても、あたしはLについていくから。
「そうですね」
「うん」
やっと笑ってくれた。
だって、必ず正義は勝つんだもの。END
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