「エムさん」
「今忙しい」
「エムさん」
「今忙しい」
「エムさん」
「今忙しい」
目で訴えるだけなら無視。
「…お腹減りました」
「…待ってて、今作る」
「ケーキが良いです」
「ホットケーキね」
エムさんは意地悪です、そう言った彼の呟きを無視してキッチンに立つ。
彼はわがままで甘えただ。
「ケーキが良いです」
「ホットケーキも立派なケーキ」
焼きあがったホットケーキにシロップやクリームをたくさん付けて持っていく。待ちかねたように指を咥え椅子にいつもの座り方で座る彼は不機嫌そうに表情を少し歪ませる。
はたから見れば、いつもの彼とは何の変わりも見えないかもしれないけれど。
「…エムさんはイジワルです」
「エルはわがままです」
「知ってますよ」
彼は苺を摘むとあたしの口元に運んだ。
「どうぞ」
「…ありがとう」
彼は苺をそのままあたしの口の中に入れた。深くまで入れようとするその指先はあたしの口内にまで入ってくる。
「美味しいですか?」
彼好みに味付けされた甘さのクリームとシロップをたくさん纏ったそれは、ひどく甘くてエルの味がした。
「…甘すぎ」
「そうですか?」
ペロッと自分の指を舐め上げた後ニコリと微笑んだ。
「エムさんの味ですね」
「変態ね」
「結構ですよ」
近くで見る彼の顔は何度見てもクマが濃くてまつげが長くて優しい。
「ディープキスでも反応ナシですか」
一瞬で笑みが歪んだ彼はもう一度口付けた。
「…っふ」
さっきよりもより深く彼が絡む。
「美味しそうな色になりました」
「…苦しいよ」
ほんのり色づいたあたしの頬に指を滑らせて笑った。
「エルは、甘い」
「エムさんは私好みの甘さです」
わがまま、甘えたがり、でも、優しい。あたしをあなた好みに変えたのは、彼。
END
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