おっきいベット、全面に広がる窓、高い天井に飾られるような照明。ただの寝室のはずなのに大きすぎる部屋。壁一枚向こうでは世界の名探偵がもうここ何日もパソコンに向かっている。
そして今日もあたしはこの部屋で一人目覚める。
「んっ…冷た、」
「おはようございます」
朝一番地肌に触れる冷たい感触。やわやわとソレが動き出す。
「柔らかくて最高です」
「一応聞くけど何が」
「もちろんエムの太ももです」
「死んでエル」
気持ちの良い眠りを妨げられて朝から機嫌を損ねられた。いや寝起きは元々気分が悪いけど、余計に。
「このまま続きを」
「しないから」
未だにごそごそとあたしの足を撫でまわすエルの手を払い除けてるつもりなのにだんだんとエルの腕の中に引きこまれていくのが分かる。
「手、冷たいよエル」
「エムが温かいので平気ですよ」
こんなに大きなベットなのにくっついて寝るなんて勿体無い。でも、そんな彼と離れられないのがあたし。
「…甘いのかな…」
「?何がですか」
「何でも無いよ、やっぱり」
「?」
照れ隠しにぎゅうっとエルに抱きつくとふわりと甘いお菓子の匂いがした。…そうね、甘いのは彼なのかもしれない。
「ねぇ、エル」
「はい?」
「お茶飲もっか」
「はい」
何となく気分も晴れたし、久しぶりに忙しいエルとゆっくりしたかったから。少し重い体を起こして立とうとした。
「……起きれないよ、エル」
「あと5分だけ」
朝の日がまぶしいのかそれとも眠いのか、くっきりと刻まれたクマの目を細めてあたしの服の裾を掴んだ。
「お願いします」
「いいよ」
まるで子供みたいね、なんて言葉は飲み込んであたしはもう一度毛布の中に入る。
「私は子供なんじゃ無いですからね。幼稚なだけです」
人の考えてる事をいとも簡単に当てて少し不服そうな声をあげて、あたしをちらっと見る。
「そーゆうのを子供って言うのよ?」
ただ毛布に入っただけでエルはすぐにあたしの体を捜して。見つかった肩を抱きしめる。
「あったかいね」
「エムがあったかかったからですよ」
さっきまで冷たかった手があたしの背中に回っててぎゅうっと抱きしめてくれる強さが心地よくてあたしまでもう一度眠ってしまいそう。
「仕事は?」
「今朝、終わりました」
「そっか」
顔をあげようとしたらチュッなんて額にキスなんかするからそのまま目線をエルに合わせてしまった。
「……」
「可愛いです」
にこぉっと笑ったエルの顔を見てるのがなんだか久しぶりで嬉しくて、怒るに怒れなくなってしまった。
「…お疲れ様」
「ありがとうございます」
またエルはぎゅっとあたしの体を抱きしめるから彼の匂いがふわりとあたしを包む。
「エム」
「ん?」
「好きですよ」
「知ってるよ」
エルがどれだけあたしの為を思ってくれてるかなんて聞くまでも無いのにね。
「じゃあ、これは知ってますか?」
「…?」
一旦あたしの体から離れて何をするのかと思えば。
「ひゃっ」
ぺろッとあたしの首筋を舐めあげた。生ぬるいエルの感触が背筋をぞくっとさせた。
「エムはとっても甘い味がします」
「…知らなかった」
「大好物です」
甘いのはお互い様。それを知っているのはあなたとあたしの二人だけ。それだけで、充分だもの。
END
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