「はい、新しい団服」
「あはは…いつもすみません」
本当よ、なんて憎まれ口をたたきながら彼女はメガネをかけ直した。任務に出る度にボロボロになって帰ってくる僕を見て、泣きそうな顔をするくせに。
「また団服に血のり付けてきたら、承知しないからね」
心配してるのを僕に悟られないようにとしてるせいでとても意地っ張りになる。
「またクマが濃くなってますね」
気丈で弱さなんて見せない彼女の疲れをひしひしとあらわしていて、チクリと心が痛む。
「こんなの仕方ないわよ、仕事が仕事だもん。それに」
苦笑いともとれる笑顔と一緒に。
「アレン達の苦しみに比べたら、ミジンコみたいなもんよ」
なんて言った。
ずいぶんと疲れているらしいエムは結びあげた髪をほどいてメガネを外した。仮眠をとらせてもらえることになってるの、といって机にうつ伏して。
「そんな所で寝てたら、風邪ひいちゃいますよ?」
「へーきよ、またすぐ仕事だし」
うつ伏したまま薄い返事を返してくれた彼女は、小さな声で言った。
「…そんなことして、疲れないの?」
自分だって科学班なんて超ド級に忙しい所で働いてるくせに。自分は、弱音なんて一つも吐かないくせに。卑怯ですよ、なんて。
「これが僕の仕事ですから」
にこりと笑い返せば一瞬おいて顔を覗かせて目を細めてくれた。優しくて、あまりにも綺麗な笑顔。一番守りたい人の、一番似合う表情。
「ありがとう」
次の瞬間聞こえた小さな寝息に高鳴った鼓動は穏やかに撫でられて。代わりに余計、愛しさが募る。
「…エム」
そんな事して疲れないの?あなたの笑顔のためなら、なんて事ないですよ。
─15分後、食堂─
「アレェェェン!!なんであたしに新調した団服かけてどっか行ってんのよ!!」
「おっ、起きるの早すぎです!もうちょっと寝てなきゃ…」
「お前が着ないでどうすんだあああ!!」
「夫婦漫才さあ」
END
thank you 江戸物語
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