「にんじん、食えるようになったんだ」
そう言われて自分のお皿に目を向ける、綺麗に光った真っ白な陶器。
「随分でかくなったもんな」
よしよしと大きな手が髪を撫でる。心地良いのになぜか身体がそわそわする。焦燥感ではなく、不安が襲う。
「分かってると思うけど」
不意に視界が回転してふかふかのベットの上に背が着く。
「俺はノアだ」
─なぜ今お前に殺意が沸かないか分かるか?
「…イノ、センス」
「壊した、形も残さずに」
あぁ、やっぱり、そう思った。イノセンスの声が聴こえないもの。あたしを呼んでくれないもの。
「…哀しいか」
「……うん」
頬を伝った涙が枕に吸い取られていった。絶望でもなくましてや解放感でもない。
あたしは、ホームに帰れない。
「…家に」
ティキは一際優しい声で囁いた。一際優しい指先で髪を撫でた。あたしを引き留める全てが憎くて愛しかったなんて。
「アイツのいるところに帰りたいのか?」
目覚めるまでが夢なんて甘い口付けで目覚めるスリーピングビューティー。
「エム…?!エム!」
ずっとずっとあたしを呼んでいたのは誰、
END
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