「おはようエム」
「ん……」
眩しすぎる朝日がアタシは嫌い。
「やだ」
「朝からダダこねねぇの」
そういって寝ぐせのついた髪を撫でてティキはアタシを起こした。
「院長に怒られんの俺ヤダもん」
似合わないビン底メガネをかけてだるだるのシャツとジーンズに素足で。
「ほら、飯食いに行くぞ」
幼いアタシの手を引いてくれた。
「にんじん、嫌い」
「だからちっこいんだよお前は」
だって嫌いなものは嫌いだもん、そういってお皿の上にはバターソテーのにんじんが3個。
「わがまま」
そう言ってペロリとたいらげた。
「ティキまた宿題やってないの」
「俺は字ぃ読めねぇの」
なんて言うから、
「アタシが教えてあげる」
その手にペンを握らせた。
「ポーカー」
「いや」
「…大富豪」
「いや」
「……ババ抜き」
「んー………、いいよ」
結局何やったって本気の彼には勝てないけど、何を言ったって彼はアタシの希望を聞いてくれた。
「エムの嫌がることは絶対しねぇよ」
「はよ、エム」
「……ティキ…」
あたしが知ってる彼は綺麗な眼をビン底メガネで隠して伸びきったシャツとジーンズをまとったくせっ毛。こんなに綺麗な服も言葉も腕も褐色の肌も持っていなかった。
「おかえりエム」
引き出しの中の少年記憶の引き出しは空っぽ。
「朝飯、食お」
優しい笑顔だけはあの頃のままで。
END
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