「ジャンプじゃなくて」
あたしを呼んだ理由を教えてよ!
「ん?あぁ、呼んだっけ」
「呼んだっけ、じゃないよ!」
放課後急いで国語科準備室来いって言ったくせに20分も遅れてくるし!来たら来たで、よぉしか言わないでジャンプ読み始めるし。
ちょっと期待した自分が本当に惨めだ。
「用無いならトシたちとカラオケ行くから」
ガタンと椅子を引いて立ち上がろうとしたそのとき。
「エム、早押しクイズやろう」
「はぁ?」
「豪華商品付き!」
「仕方ないな」
いきなりわけの分からない事を言い出して座るように促した。
「第一問、俺のスリーサイズはいくつでしょう」
「はぁ?!」
もう本当勘弁してくれって出鼻。
「分かるわけないじゃん!」
「8、7、6」
ニヤリと笑った顔が妙に腹立たしくて。
「93、67、90!」
「ぶっぶー、5回間違えたらアウトな」
分かるわけないじゃんの連発でもう半分放棄ぎみ。第一、アウトって何よ?先生はこんなんだから…
あぁ、もう言うのもやだ。
「第二問、俺が昔欲しかったお菓子なんでしょうか」
「第三問、俺の相棒の必殺技の名前はなんでしょう」
「第四問、俺に好きな奴はどんな奴でしょうか」
普通にいつもとおんなじ顔で言うから一瞬スルーできそうだったのに。
「え…」
銀八の好きな人なんて。
居るってことすら知らなかったのに。
「エムちゃーん?」
「!な、なに?!」
「時間切れね、第五問」
これが多分ラスト。
あぁ、アウトなんだ。
「俺の好きな人は誰でしょう」
そんなの、ずっとずっと知らないままでいいのに。分からないままのほうが、いっそ楽。
「エム、答えて」
「5、4、3…」
─ガタン!とびっくりするくらいの音を立てて銀八の椅子が突き飛ばされて、あたしの目の前5センチくらいに現れた。
「エムアウト」
あまり聞くことの出来ない銀八の低くて男らしい声も、今はただあたしの涙腺を逆撫でするだけ。
「なぁエム…教えてよ」
溢れる涙を拭おうとする手が押さえられて銀八に目を眼鏡越しに見つめられるだけ。
「お前の好きな奴」
柔らかくて甘い甘い口付け。
残念、時間切れーそんなことしなくたって想いは通じてるよ。
END
thank you 江戸物語
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