「晋」
名前を呼ばれた。
久々に聞いたのは、なんて可愛げのない声。
「…んだよ」
「つまんなかった」
晋が帰ってこないから、そう言って拗ねたように背を向ける。
「俺に暇つぶしの相手は向かねぇよ」
そう言って煙菅をふかす。俺が朝帰りなんて当たり前、もちろんエムもとやかくは言わねぇ。ずいぶん昔からの連れだからな。
「ヅラのとこ行けばよかった」
「許さねぇぞ」
「銀のと」
「やめろ」
「じゃあ、た」
「エム」
痺れを切らして怒鳴ればエムはつまんなそうに歪めていた表情をさらに寄せて言った。
「じゃあかまってよ、晋」
じゃあってなんだじゃあって。そんな言葉を今更吐くつもりもない。
「ねぇ」
早くしないと行っちゃうよなんて俺を急かす。着流しの裾をくいくいと引く指先を辿れば、そうだそこには愛しい愛しい、ってか。
「晋?」
その腕を引いて小さな身体を俺の中に収める。
「寂しかったなら素直に言え馬鹿」
目を細めた。
新婚さんみたいだね「晋、赤い」
これからも宜しく。
END
thank you 江戸物語
←|back|→