「晋助、お酒持ってきた」
「…あァ…入れ」
一応、断わってから部屋には入る。晋助に気を使ってるんじゃなくって、知らない人とか居たらまずいから。
具体的にいうと女の人とか。
でもやっぱりそこには晋助一人で、窓全開で優雅そうに煙管をふかしてた。
「お酒」
「そこら辺置いとけ」
「うん」
机の上に置いたとき、今更だけど初めて。
「今日、十五夜」
「…あァ、そうだな」
通りで月が綺麗なわけだ。晋助は相変わらず喉の奥の方で笑っていた。
「やらしい笑い方」
「ククッ…うるせぇよ」
月見酒なんて、ずいぶん風情な真似しちゃって。──夜と月の似合う晋助が、色っぽい。
「エム」
こっちに来いなんて言うから隣に座ったのに、後ろから抱き締めるなんて聞いてない。
「じっとしてろ、ガキに欲情はしねぇよ」
「そりゃどーも」
嬉しくも安心もしない言葉に適当に返事したら悔しいのかなんて言うから
「ぜーんぜん」
「上等だ」
抱き締められる腕が心地よくて、うなじに触れる冷たい鼻先がくすぐったい。
後ろから柔らかく香る、晋助の匂い。
「香水のキツイ女に良い女はいねぇ」
ひどく優しい、低い声。
すごくすごく、優しい。
「あたしは良い女だと思うの?」
「マセガキ」
憎まれ口しか聞けないクセに腕には強く力をこめて。痛いくらい、護られてるって感じる。
「寂しいの?」
「…生意気抜かしやがらァ」
獣は一匹狼かもしれない。
だけどあたしは獣に拾われた事を誇りに思うよ。
「ねぇ、晋助」
明日はカレーだね「好きにしろバカ」
END
thank you 江戸物語
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