(給仕係×ジャブラ)
「(まだ言っておらんのか、この腰抜けが)」
「(うるせェよ!)お、おいエム…」
「おはようジャブラ」
「お、おう…!じゃ、じゃあな」
「(ダメじゃこりゃ)」
「みんな今晩は何食べたい?」
彼女はCP9の諜報部員専門の給仕長。エニエスロビーにおいてなぜ彼らだけのために食事を作る係りが必要なのかというと、彼らが常軌を逸したわがままでいつ何時何を食べたがるのかが予測不可能な上に、気に入らないと荒れるという人格崩壊人間たちの集まりゆえのこと。
「肉じゃ」
「なら、久しぶりにエムのビーフストロガノフが食べたいわね」
「よよォ〜い!大根とにんじんの味噌汁と卵焼きとあじの開きと白いごはんがァ」
「俺はエムが「ルッチは生魚ね」
ジャブラは?と調理のためか日頃から束ねられた髪をさらりと翻して向けられた横顔に、彼は顔色は瞬間沸騰。
「あ、そ、そうだな…俺は、何でもいいぞ」
「分かった」
そうこうしていればあっという間に準備された料理が彼らの目の前に並ぶ。戦う身体の資本は食べ物だからね、と目一杯に作られた料理も彼らにかかればすぐに皿の底が露わになる。一人生魚をバリバリ平気な顔で食べる男がいるせいで食堂は何やら魚臭いが。
「じゃあ、下げるね。また明日の朝ごはんで。おやすみなさい」
「ちょ…エム!」
「(…お?)」
ついにやつが動いたか?とカクたちの関心がひそかに集まる。
「て、手伝うぞ…!」
「いいよ、大丈夫。おやすみジャブラ」
「…!…お、おう……」
表情一つ変えずに大の男の一大決心を見事粉砕してみせた彼女は、片付けのためにやってきた他の給仕とともに食堂からすっと出て行ってしまった。
「…まったく、」
情けないやつじゃ。
がっくり肩どころか頭を垂らして落ち込むジャブラを横目に、エムを追いかける。
「気付いてるんじゃろ、エム」
「そりゃまあ、あれじゃあね」
「悪い女じゃ」
「まさか、あたしは嫌いなんて言ったことないのに」
「いつもツンとしておるくせに、何も言わんでもジャブラの料理はいつもあやつの好物を並べておいて」
おぬしらの奥手具合には溜息しかでんわい。
傷付かない距離で攻防戦それさえ恐れなければすぐそこにいるのに。
END
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