「えへへ」
よりによって俺の頭を笑顔で撫でるガキなんて、海は広しともこの世にお前くらいなもんだ。…いや、こいつは普通のガキ、変わっているのはよっぽど今の俺の方。
「ルッチはあたしの言葉が分かるみたい」
「グルルル…」
「不思議だね」
そりゃあ、俺は人間だからな。
長官にサーカスに潜入してこいと普段通りのにやけ面に加えた半笑いで言われたときは、お前の方がよっぽど人寄せに向いているなんて安い台詞が喉の寸でまで出かかった。
「長官」
「ジャブラは今別任務に出てるしな、ルッチにしかできねェ任務なんだよ」
「…しかしこれは」
「任務だっつうの!お前、俺に逆らうのか?」
親の七光りを盛大に振りかざす能無し上司に呆れつつ、ギロリとわざと殺気を込めて睨み返す。
「分かりました」
「おっ…おう…!が、頑張ってこいよ!」
何が頑張ってこいだ、バカヤロウ。
「グルルル…ッ」
随分獰猛そうな豹を仕入れたもんだね、いやこれがかなり賢くて芸達者なんですよ、そういう会話が目の前で交わされるのはこれで三度目だ。獰猛な豹というのはも無論俺のことだが、それはそうと潜入には成功していた。サーカス団の一切の疑心なく、こっちはまったく納得いかないが。革命軍の人間で固めたこのサーカス団に人間で入団は不可能だった、まったく納得いかねェな。
そんな中で、俺に近づく奇特な人間もいたものだ。
「ルッチっていうんだってね。さっき、みんなが話してるの、聞こえたから」
「ガルル……ッ…」
「吠えないで?あたし、ルッチのこと怖くないよ」
だって鳩が一緒の檻に入れるんだもん、ルッチは優しい豹なんだよね。
そう言った自分の格好の方がよっぽど荒んだ扱いを受けてきたと物語っていたことを、このガキは自覚していないのだろう。
「指銃」
聖地マリージョアへサーカス団の興業を装い白昼堂々天竜人にクーデターを計画。それなりに肝の座った司令隊長でもついているのかと思えば、なんてことのない、主義主張ばかり振りかざす大したことのない三下だったか。まあいい、こいつをエニエスロビーまで連れて行けば俺の仕事は終わりだ。あとは、あれを回収して撤収するのみ。この獣化生活ともおさらばだ。
「…るっち……なの?」
「…エム」
ずっとそこに隠れてたのだろう。獰猛な豹が鳩と共存していたその檻の中に。
「革命軍には殲滅命令が出ている」
「せんめつ?」
「─…俺と一緒に来い」
豹が彼女を飼った日お前に生きる術を与えてやる
END
むかしばなし的な裏設定(サーカスで飼うのはライオンではという発想はなかった)
甘さがカケラもなかったのでボツになった初期案…おまけです、ごめんなさい!
←|back|→