衝撃のお告げから一日、元から早かった逃げ足を駆使して今朝もルッチのセクハラから逃げていたら、海がよく見えるところに迷い込んだ。
ここはどこだろう。
「わあ…やっぱり、改めて見ると」
海って広いな。
そうだ、ここに来てからはすぐに刀ちらつかせる長鼻さんやミスター目力改めミスター発情期に迫られてばかりでバタバタしていたからすっかり忘れてた。あたし、漂流者で、家無いんだ。
…やば、何か泣けてきた。
だめだめ辛気臭いのは。元気出さなきゃ。くよくよわんわん泣いてどうにかなるわけじゃない、そんなのは性に合わない。
「っ痛たたたた!」
「俺から逃げられると思ったのかバカヤロウ」
「痛っ!いたいっみみみみっ!離してっ」
センチな気分で海を眺めていたら、急に左耳に全体重を否応なくかけさせられた。要は左耳で摘みあげられているのだけど耳ちぎれるかと思った。
「いきなり『目閉じて』なんて言うから、朝の口づけを期待していたんだが」
「あたしの口があなたへの愛を紡ぐ理由がないです」
「今日から訓練を始めるぞ」
「その前に準備体操とか言って襲いかかってきたのは誰だ」
「俺の至宝の朝の鉄塊を破る術は一つしか」
「ほんと死ね」
ここまで出かけていた水分は気付いたらすっかり引っ込んでいた。センチな気分もこのド変態さんのおかげでどっかへ行ってしまったような気がした。
「俺から逃げられると思うな」
「それは、ただのお気に入りとしてでしょうが」
「帰りたいのか」
キッと横目で睨み付けられる、いや睨み付けるというより、何か探られているようなまなざしのようにも感じた。威圧というより、尋問。
「そこは俺が責任持ってお前を送り届けるくらいのこと言ってよ」
「手離す気はない」
しっかりとあごを掴まれたと思ったらそのまま上を向かされて。
「やだ、ちょ、何すんの」
「いい雰囲気だろうが黙ってろ」
センチメンタルな郷愁を強襲
柄にもない優しさに襲われた。
「(…訓練はいつやんだよ)」
「(セクハラだわ)」
「(そろそろ出て行っていいかのう)」
我先に訓練指導のために追いかけてきたけど先越されて出るに出ていけない殺し屋たち。
END
(至宝の鉄塊とか最低)(今更)
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