「保健体育担当のシャンクスだ。俺的にはドッジボールとかやりたかったんだけどなー…雨ふっちまったからさ、悪ぃな!」
あの捏造時間割りはいつの間にか破棄されていた。
誰がやってくださったんだか知らないけど帰りのホームルームには派手にたんこぶ作って帰ってきた担任。改めて配られた時間割りにはその名前は週に5回、毎日あります数学だ。…それでも多い、ていうかあの人文系でもなんでもないじゃない。
「ま、そんなわけだから」
パラパラと真新しい名簿を捲りながら、やがてパタンとそれを閉じた。
「自習にする!やることねぇなら寝ていいぞー」
途端にがやつく教室内。どうやら先生は自由奔放な教育方針なのか、どうにも担任があれだから肩に力が入って仕方なかった面々はおしゃべりを始めた。
なんだろう、真面目なわけじゃないんだがこういうのが慣れなくて。あたしは一人無意味に机の上にさらされた教科書に手を伸ばした。
「お、真面目なんだな」
「…そうですか?」
案の定というか、予想外というか。一番前の席だったあたしは先生に話しかけられた。
「隣は俺が来たときから寝てるしな」
やれやれそうなのにニカッと笑う様が、可愛いし格好良い。人当たりも良さそうだし、女の子たちに人気なのも頷ける。先生たちとの交流なんて好き好んできた方ではないからあたし自身は接点なんて授業中くらいなんだけれど。
「保健、しないんですか?」
「ん?」
「教室での授業って言ったら、保健とか。そういうの」
「あぁ、まぁな。でも保健なんて結局セックスについてくれぇし教えないし。今時の若いのは充分に予習済みだろ?」
「なんてことを」
「まだなら俺が教えてやろうか?」
「な…っ!」
「お。新鮮な反応」
「先生ばか?」
「かわいい奴だなー」
耳まで真っ赤じゃねーか、なんてからかって笑い始めた先生を恨めしく思った。うちの担任とは違った意味で、また苦手かもしれない。
あーもう、あたしにしか話しかけないからファンの女の子たちがすごい言ってるよ。やだやだ後でなんか言われたらどうしようー。
そうこうふためいてる間に先生は立ち上がって教壇から降りた。手には名簿と荷物、自習にしたから職員室か体育科研究室に戻るつもりなんだろう。
「お前、気に入ったよ」
「あーもー……はい?」
「お前んとこの担任には負けてらんねぇな」
くいっとアゴ持ち上げられたと思ったら、唇に唇が乗っかった。
アンタって奴はかわいかったらちゅーしちゃうのか!
「?、?!」
「ははっ、俺のことはシャンクスでいーから」
ひらひらと名簿持った後ろ手に振ってシャンクスは教室から去った。
END
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