長官がルッチたちに任務を言い渡してからひと月が経った日。
「んっだよォー殺すななんてめんどくせぇなァ…」
廊下に響く足音に混じってジャブラは盛大に肩を落とした。ネクタイを弛める仕草からして、スイッチは入れてくれたみたいだけれど。
「潜入なんて久しぶり」
パラパラとめくれば割と長めに記載された特徴やら状況やら事前把握項目、最近短期ばかりだったから、そう感じるだけかもしれない。潜入の任務にフクロウとクマドリが入れるわけもなく、今回はあたしとジャブラの2人での任務だ。
「まぁ面倒な仕度も必要なさそうだ…飯食ったら部屋に行く」
「分かった」
かたや、先日言い渡されたルッチたちの任務の限度は5年。長官いわく必ず存在するという古代兵器の設計図だけど、実際そんなものが現存しているかは怪しいもので、すぐに帰ってこられそうもない様子だった。加えて自ら船大工として潜入するカクとルッチの訓練期間が必要ということで出発が伸びている。
そして今日が、出発の日。
「いきなりごめんなさい。エムにお別れを言いに来たの、しばらく帰れそうにないから」
3年前までは外見にまだ少女の気が残っていた彼女も、随分性格に似つかわしくなった。
しかし一気に四人も長期任務でここを離れるとなると、また近い内に人員不足だなんだって長官が騒ぎそうだ。
「それじゃあエム…行ってくるわね」
「うん。いってらっしゃい」
「ところで…ルッチはここにいないのかしら?」
「ここはアイツの部屋じゃないよ…。自分の部屋じゃない?」
「それもそうね」
カリファの言う通り、珍しくあの猛獣はここには来ていなかった。何も今だけではなく、昨日から姿を見ていない。余程長期任務のための準備が忙しいのか、ともすれば本当にルッチらしくないのだけれど。
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