ふと思いだしたことに自嘲し口元に手をかざす。その背を見ていると、突然振り返った。
「あァ、俺大将になったんだ」
あまりにも今更なことを言うから思わず笑ってしまった。
「…知ってるよ。海軍本部、大将、青キジ」
そう呟いてみれば彼はほんの少し嬉しそうに見えた。そしてしばらく立ち止まると小さな声で呟いた。
「─お前によく似た女がいるんだが、」
「?」
「…や、なんでもない。こいつもなかなかの良いオンナなんだよ」
ひらひらとまた手を振って消えていくあの背をこんなに穏やかな気持ちで見送ったのは、初めてだ。
彼がいなくなったのを確認して、あたしもゆっくり自分の部屋へ歩みを進めた。
ご立腹中であろう彼をなだめることの方がずいぶんな骨折りね、なんてずいぶん呑気に考えて。
END
←|back|→