「ついてくる必要は無い」
「……ついていくんじゃないよ。あたしが、行きたいだけ」
少年はもう少女の手を握ってはいなかった。ただ何かを目指し淡々と歩いている。その二つの眼には幼さなんて似合わなかった。特に、少年の眼には。
やがて彼らはあの男に出逢う。
「─初めてお前らを見たとき心底海兵には向かねェと思ったさ。お前には意思の強さこそあれそこに迷いが無かったわけじゃない。あいつの眼は土台正義の為云々なんてもんじゃなかった」
クザンは起き上がりながらアイマスクを外しあたしの前に立ちはだかった。
「絶大な強さと血を求める、心底冷てェ眼だ」
クザンは動くことの出来ないあたしを蔑むように見下していた。一瞬、彼の言う通りなのかもしれないとさえ思った、そう思ってしまうほど強い眼だったから。
「お前らをあの場で殺すべきかどうか、俺は正直迷った。そして迷った末、俺はここにお前らをぶち込んだ」
徐々に足元が解放されていくのがわかる。冷たさに感覚は奪われていたけど確実にそれは溶かされている。
「俺にはお前らの先を監視する責任がまだ残ってる。単なる人殺しに染まるか、怖じ気付いて死ぬか、はたまた別のなんかになっちまうか─」
それだけ言ったとき両足は完全に解放された。
「お前は何を恐れてる」
気が、刺さる。
「場合によっちゃあ、今俺が殺してやる」
解放された今なら逃げることも可能かもしれない、もちろん逃げ切れる可能性なんて塵にも充たないほどだけど。
深く息を吸って一歩、前に出る。
「あたしはCP9であることを後悔なんてしてない」
似合おうが似合いまいが、あたしが今まで生きてこられたのはここで生き残りたいと願ったから。今更他の道なんて選ぶつもりもない。
「あたしの意思でここにいるの」
自ら望んで歩きだした結果が今。仕事なら人殺しを躊躇いもしないし、あたしは何か曲がらない信念の下正義を貫いてるわけじゃない。
ただ、生きたい。彼の足手まといにはなりたくない。
「それだけ」
その言葉に、クザンはわずかに、眉をしかめていたけど。
「正義の名がつく人殺しでもか」
「もちろん」
迷いなんて無い。
たまたまあたしの仕事が“正義”だったってだけだ。
←|back|→