「だから言ったろうが…今更テメェらを取って食おうなんて思ってねぇって」
起き上がったあたしが居たのは修練場とは距離をおいた塔の中庭。辺りを見回しても見張りの海兵が一人としていないのは、きっとこの男が追い払ったに違いないと思う。
「大体今更殺すくらいならあの時俺はお前らを政府になんて引きこまなかった」
大きな木の植え込みに寝かされていたあたしからこの男の表情は逆光で見ることができない。ただ声の低さは髪を凍らせたときのと同じ。
「あン時お前らをここにぶち込んだのは他でもない俺だ。今更何してようが、関係ねぇっちゃ関係ねぇが…」
そう言って面倒くさそうな溜息をつくと、ごろりと私の横に寝そべった。
「一応監督責任があるんでな」
そう言ってアイマスクの中に彼は隠れた。
「…それこそ今更」
最後にこの男の背を見た時はなんて大きな背だと思った。こんな男を超えるなんてあたしはもちろん、彼だって無理だと思った。
だけど今前にいる男はまるで隙だらけで寝ている。もちろんこの自然系の能力に勝てるはずもないけど。
「あの眼」
「…何」
「あいつがお前を護ろうとしたときの眼だ」
しっくりこなかったのは、護ろうとしたの一言。彼はそんなくだらない理由で人殺しはしない。いちばん近くで彼を見てきたあたしには明白なことだ。
「何言ってんの」
「まァ、お前がそう思うなら別に構わねェが」
しかし、と一呼吸おいたその声にあたしは目を向けた。
「お前も良いオンナになったなァ、いや驚いた」
「アンタは相変わらずとてつもなくうざったい」
「おいおいだから冷てェこというなって…すっかり口悪くなっちまって。良いオンナが勿体ねェぞ」
スッと立ち上がってあたしは自分の服に付いた草を払った。
「なんだ、いっちまうのか」
「アンタとあんまり一緒にいると、後で大変なの」
「あれあれあれー?あいつもまだまだガキなんだなァ」
「…さぁ。アンタよりは可愛いけど」
←|back|→