ひんやりと、錯覚ではない冷気を感じる。
「二度とそんな声出せないようにしてほしいのかエム」
耳元で囁かれた言葉はあまりにも冷たくて、彼に触れられた髪のように凍っていく気がした。
「そいつから離れろ」
目の前が暗く陰ったその時、ほぼ同時にルッチの声がした。クザンのうなじ辺りに人差し指を突きつけ静かにその殺気を突き刺して。
「…ルッチお前、俺にそれが無意味なことくらい分かってるよな」
「─…エムから手を引いて、ください」
この場にみんながいなくて良かった。きっと、誰もが彼らの覇気にあてられてしまう。
きっと今のあたしのように。
「っ……」
頬をかすめる芝生。風は穏やかで右から左へ吹き抜けていった。目が覚めて目に映ったのは見慣れた蒼。
意識を失って、それから、
「…?」
ここは修練場でもあたしの部屋でもない。
「!」
一瞬、自分に足があるのかを確認したくもなった。
「目が覚めたようだな」
「─クザ…!」
身体に力も入らず、無意識の内に反射で突き付けた指先は彼の掌の中に大人しく収められてしまった。
「ふー……お前もあいつもまだまだガキだな」
ちったぁ成長したみてェだが、とだけ言うとそのままあたしの手を離した。…指先は健康的な肌色を保ったままだ。
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