long(op) | ナノ



「おうおう、冷てェなエム…哀しいぞ俺は」


いかにもなわざとらしい溜め息をついて一度まぶたを伏せた。

意識していなかったとはいえあたしはこの男がこの島に来たことをまったく感じ取れていなかった。忘れていたのだとしても、気配を殺していたとしか思えない。今確かに感じられるのはこの男の昔から読むことなんて到底出来ないその行動と強さだけで、何を考えてるかなんて見当もつかない。相変わらず本人は気すら発しない。

クザンは腰を下ろしてもあたしたちをじっと見ていた。そう、見るだけ。ただ立ち尽くすあたしたちと彼との距離は外野からどう見えるのか。その表情にあの頃かけていたサングラスは無くて、その彼の眼を直に感じる。

どのくらいの間か分からないほど。

まるであたしも彼もルッチも、凍ったみたいに動かなかった。否、少なくともあたしは動けなかった。
やがてクザンは待ちくたびれたように頭をかいた。


「お前ら、アレだ。…んー、まぁ、アレだ…あぁそう。
訓練やんねェのか?」


その態度すら掴めない男は言った。


「…なぜ、…ここにお前が来た」


ルッチが尋ねると、再びあたしたちにその眼を向ける。
そう、海軍の、しかも大将が、なぜ表とは無縁のあたしたちの住む島に。ここは“だらけきった”とはいっても真っ当な“正義”を掲げる大将が来る場所なんかではない。

それ以上に。
あたしたちの前にこうして10年ぶりに現れた理由が、何よりの疑心と恐怖心を煽った。


「ったくルッチは相変わらず上に対する言葉遣いっつーか態度がアレなまんまじゃねぇか…俺が言えたもんでもねェけど。
で…あぁ、なァに、何も今更テメェらを取って食おうなんざ思ってねェから安心しろ」


彼はそう告げたが、そんな答えを待っていたわけじゃない。


「そんなこと…聞いてるんじゃない」

「どうしたんだ怖ぇ顔して。ま、美人にはそれも悪かァないが」

「あなたがあたしたちの前に現れた理由を聞いているのよ!!」


久しく張り上げなかった声を出してでも、あたしはただその男の掴めない面に尋ねるしかなかった。凍りついてしまった頭では他に術が思い付かない。


「んな声を荒げなさんな、ちゃんと聞こえてる」

「質問に答えて!」

「…やれやれ…」


そう言うとクザンはよいしょっと立ち上がり、呟いた。


「…それとも」


この男の強さに、きっとあたしはいつまでたってもついてはいけないと思った。

この男の行動には気付いていた。次の瞬間、この男があたしに何をするかくらい。でも、気付いただけだ。
たとえ分かっていても、動けなければそれに意味はない。動かない身体と、司令を送れない脳に力は無い。今のあたしには同時にもう一つの気を察するので精一杯だった。



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