「よぉ」
その声に、背筋が凍った。
仕事柄反射的に身体は声の方に向こうとするものだが、今のあたしは身体全身が固まってしまったように身動ぎ一つできない。冷や汗すら伝わないような気がした。細胞が凍結しているような感覚だ。
この声が空耳だったらと願った一瞬も叶いはしなかった。
「久しぶりだなァエム」
あたしの2、3mほど前にいるルッチは一際深く眉間にシワを寄せてただ一点を睨み付けている。身体中の関節をバキバキへし折るような気持ちでやっと振り返ったあたしのすぐ後ろに、その男は立っていた。
「お前もいたかルッチー。久しぶりだな」
ひらひらと手を振り、あたしたちを一瞬にして凍らせた男。
「お前……」
彼ですらその眼を疑いその一瞬怯んだ。だというのにその男は私達の横をなにくわぬ顔で通り修練場の一角に腰を下ろして頬杖をついて呟いた。
「何、俺のこたァ気にすんな。それよりテメェらまだ訓練中だろ、いや邪魔してすまなかったな」
続けてくれ、なんて言う。
よく言ってくれるとはまさにこのことだ。現にあたしには既に彼と訓練を行えるだけの戦意なんて無い。
あるのはそう─
「─…何しに来たのクザン」
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