「……任務は」
「俺はしばらく無い」
「…そう」
うっすらと開かれたまぶたからはまだ眠気を引きずった表情。相変わらず、寝起きが悪い。
同じだけ目を薄めれば「仏頂面」なんて笑いやがって。
「寝てろ、いつ任務が入るかわからねェだろ」
「…自分がやったくせに…偉そ」
柔らかに癖をもった髪に指を通せば、寝具の上に透き通った黒が映える。
「ずいぶん長くなったな」
数年前、肩のあたりで揺れていたこいつの髪型を思い出す。
「アンタ……伸ばせって、言ったでしょ…」
そう言うと眠たそうに薄めたままのまぶたでエムはゆっくりと身体を起こした。
指に絡めていた黒髪も、するりと俺から抜けていく。
「シャワー…浴びる」
一言だけ告げ、俺に表情すら見せることなく行ってしまった。その後ろ姿はあまりにも妖艶で、あまりにも儚く見えた気がした。
「朝飯が終わったら訓練に付き合え」
「…まだ拗ねてるの」
「バカヤロウ、黙れ」
振り返っていたずらっぽく笑った顔は、ガキの頃の面影を残したまま。
そんなエムに甘えてるのは俺の方かなんて自嘲が漏れた。
END
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