「あたしが抱けるの」
「試してみるか?」
肌に張り付くシャツ、濡れる髪。赤いあいつの全てを奪ってやりたいと思った。
この島は暗闇こそ訪れないがそれなりに陰りをみせるときもある。
エムの部屋の壁一面に張り出された窓から差し込む薄い光りは、俺とこいつを照らすほどの強さもなくただ窓際のみに薄い明かりをもたらしていた。
腕の上ではエムは小さな寝息をたてて眠っている。面影こそあれ幼さの抜けた顔にはもはや可愛いなんて表現は似合わない。決して深い眠りではない、任務に明け暮れる身体を休める為の仮眠に近い。僅かでもの時間があえば俺はこの女を抱きにくる、こいつは次の任務が訪れるまで行為を終えた俺の腕の中で眠る。
「よく寝てやがる」
俺のせいで余計に疲れた身体を少しでも休めるために。
俺はその寝顔を見ていてたまに思う。この女はどうしてこんな綺麗なツラしてこんなにも細い身体で。
殺し屋なんて、やっている。
勝手な自信だ。だが確信もある。エムに殺し屋は合わない。
「…ん…」
腕が悪いとは言わない、任務遂行には充分だ。本人の好き嫌いに関係なくずいぶんと恵まれた能力をもっている、技術に関しての問題は無い。
ただガキの頃から一緒だったエムを横で見ていれば充分だ。感情も甘さも殺す術を俺たちは叩きこまれた、が、こいつは心を殺せていない。
←|back|→