あの男に連れられ、世界政府に身を置いたのは10になったばかりのとき。
その頃は女といえばCP9の年いった先代とエムだけ。俺たちが正式な諜報部員になって2、3年後カリファが現れたくらいだ。任務で女を手にかけることなり、接触することはあっても、関わりがあった女など皆無。元より性の対象になりえる人間などいなかった。勿論女を抱いたことなど無い。
「今回の任務の主は諜報。殺すのは容疑が確定し全ての情報が入り次第だ」
投げ出された資料は相変わらず自分でやれという放任の姿勢の現れか。ところがこの日の長官は、その次を口にした。
「情報を引っ張る諜報においては野郎の女から聞くのが一番早く正確だ。今回の任務ではお前に奴の夫人を抱いて情報を引き出せって事なんだけどよ……テメェ女も抱いたことねぇのかよ?めんどくせぇなァ」
どうすっかなァ…と、あからさまに面倒くさそうに頭を掻いた。
下品なのは今に始まったことでもない、最近では近々せがれに跡を継がすとか揚々とぬかしている。…そんな話はどうだっていい。
寝台での口の軽さは、諜報において何より正確で頼りになる情報をもたらすと教えられた。諜報においては、身体は大きな武器だ。
「出発までまだ一ヶ月あるからな、まぁそれまでに男磨いとけ……おぉそうだな!エムに抱かれてこい。あいつならお前も問題ねぇだろ」
それでいいそれでいい俺ってばやっぱ天才?と勝手に自答した後、すぐに長官は電伝虫に手をかけた。
「─…お、エムか。俺だ俺、スパンダインだ!そうだな、あー……すぐだ、任務はねぇよな。…おぉ、あとはよろしくな」
用件だけの通話すぐに切られ代わりに俺に目が向けられる。
「すぐにエムんとこに行ってこい、問題ねぇっつてたから」
ここまで冷静に聞いておいて何をと自分自身でも思う。絶句とも、また違うだろう。
こんな環境の中であっても誰よりもあいつと一緒にいたと自信にも似た自負があった。そこに欠片でも情が残っていたせいかもしれない。
それが、どうだ。
『ッ……ルッ、チ…みんな…死んじゃっ…た…!!』
俺の服の袖を掴んで、泣いていた。
『…死んだら許さない』
俺の背を、哀しそうに撫でていた。
毎日いつも通り、当たり前のように横にいたあいつが知らない内に男を抱いていたなんて知った俺は、バカみたいに硬直してしまっていた。
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