「指銃」
「っ?!」
「…邪魔」
「何者だ?!」
「ここから逃がすな!!」
客の試飲を見届けるとステージの袖から主催者はボーイらと引っ込んで行った。その瞬間を見計らって俺たちはそこへ侵入する。
「ターゲットは」
「甲板に、向かってる…けど、間に合う」
逃がしなどしない。
「止まれ」
随分と息を荒げたその中年の男は俺たちに背を向けたまま足を止めた。
「ハァ…っ…か、海軍の者か…っ!?」
「CP9です。大人しくしていただけなければ、手荒な手段もいといません」
「サイファーポール…政府の役人か……9だと?」
体技を使用するまでもない、無論既に俺たちの通ってきた道には赤が溢れている。
この男の壁はない。
「禁止薬物の製造・所持・販売、違法商取引…─そして革命軍への資金繰りの容疑で貴様をエニエスロビーへ連行する」
「!エニエス、ロビーだと…」
名前くらいは承知な様子で助かった、一々補足する時間も惜しいのでな。
「乗り込んでください」
エムが船に付けたボートに手を着いた時だった。
「……っ、ふざけるなァ!」
懐から取り出したのは12口径の短砲身銃。そんなもの撃ったところで何になる。
「…な…っ!?」
エムの右肩から跳ねた銃弾は弱々しく海に沈んだ。
「船に、乗ってください」
「ぐは…っ!」
男の右肩に開けてやった小さな風穴。悶えたまま、その小太りな身体はボートに落ちた。
「我々はNo.9。唯一殺しを許された常に明るみにでないサイファーポールです」
逆らうのは利口な手段ではない。
ただ苦しみに悶える男を見下し甘すぎる任務に思わずため息が漏れる。手を出したところで、到底貴様らの敵う相手じゃない。
「…出すよ」
「あぁ」
ボートはただしぶきをたて闇の海を割って進んだ。
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