「遅せぇぞ!俺を待たせんじゃねぇっ!」
「ごめんなさい足腰立たなくて。どっかのばかが盛るせいで」
「鍛え直して欲しいみてえだな」
「どっかのばかの頭ん中では言葉の変換が上手くいってないみたいです」
「喘ぎ声以外あげらんねぇようにしてやろうか」
「長官ってもっと恭しく扱われるもんじゃねぇのか…?目の前でそんな淫猥な…長官ってもっとさぁ…」
妖艶なほどに似合う黒を身にまといこの部屋に現れた女は、口先とは裏腹に先程の陰などまるで感じさせない凛とした姿だった。
「っつだぁあもう!そんな話させるために呼んだんじゃねえよ!
ルッチ、エム、次の任務はテメェら二人でやってもらう!めんどくせぇから詳しいことはその書類を見とけ!」
バンと机の上に投げ出された二つの書類の片方を手にとる。
「一週間後の夜、海上の豪華客船でデカいパーティーが催される。お偉い方が集まる社交パーティーみたいなもんだ。その裏で主催者が麻薬取引をするっつー情報が入った。
今回の任務は、その現場を押さえて証拠と主催者を捕まえてくることだ。
いいな!生きたまんまだ、色々と締め上げることがあるからな。邪魔な奴は殺してかまわねぇ。くれぐれも他の客に悟られんな、以上!」
あまりにも端折られていた説明を書類を捲りながら聞き、長官がコーヒーをすするのを待った。まだまだ作戦を練る必要があるようだ。
「了解しました」
「おう!頼んだぞルッチ!」
「それでは、失礼」
「潜入捜査」
「あぁ、一番妥当だ。社交パーティーともなれば潜り込むのは容易い」
俺の部屋で簡単な作戦会議をすれば互いの意見に大きな相違はない。
「ならあたしとペアな理由は…簡単か」
「あんなガキどもじゃ無理だ」
今回の任務は俺とエムのペアでの潜入。客に潜れば情報も手に入る。
「表向きはお偉い方の社交…裏では麻薬取引。かわいいことするのねー」
麻薬の情報など事細かに記されているせいか書類は短期任務にも関わらず厚い。
「取引のパーティーに参加する形になれば服用を求められる可能性もある。気をつけろ」
「ん。主催者と証拠を掴んだ後は」
「後は海軍に任せればいい。俺たちの任務はあくまで“主催者の捕獲”だ」
短期の軽度任務。
大した障害もなく、俺たちは中に入ることに成功した。
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