「エム、そろそろ出るぞ」
「分かった」
隣接した部屋に入ればそこには見たことのない女が一人。俺は思わず眉を潜めた。
「…もっと笑ってよ。そんな強面な紳士じゃお嬢さん方も後込みしちゃうじゃない」
顔だけは良いんだから、と悪態をつくその姿にも言い返せない。
「…あぁ…」
普段と大して変わらない俺の姿に比べれば、エムの変貌様といったらない。
「歩きづらい…マーメイドドレスなんて」
歩きづらいという面すら見えない歩調で俺の元へ来ればそのあまりにも綺麗なツラで微笑みかける。
「エスコート、お願いできますか」
あまりにも綺麗過ぎる調度品に身をつつみその生業をどこぞの令嬢かと思わせるに充分な雰囲気を漂わせて。
「─…勿論。喜んで」
この時ばかりはあまりにも似合いすぎるシルクハットをもってその片手を差し出した。
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