「覚えているか」
忘れるはずもない。
運命を変えた奴らの証を。
運命は、あの日。あたしたちの帰る場所が失くなった時から180度変わってしまった。それは仕方なかったこと。
「間違いない」
忘れもしないジョリーロジャー。今更憎悪なんてわかない。CP9に身をおいて恨み辛みの全てはいつの間にか跡形もなく心の中から消えた。ただ今のあたしにある感情は下劣な海賊を嫌うくらいなもので、今背筋を伝う冷や汗はそんなものじゃない。
「お前はもう部屋に戻っていろ」
あたしが気にしているのは赤。刻まれた赤はソファから身体を起こしてバスルームへと歩んでいく。彼の背中を目前で見てあたしは思わず、手を伸ばしてしまった。
「…服が汚れるぞ」
やっと届いた腕は彼の身体分には足りなくて、指先は肩を抱くことしか出来なかった。
「早く、手当て…、受けて」
絞りだした声はあまりにも頼りなくて、彼にどれほど伝わったかは分からない。ただ立ち止まって聞いてくれていることだけがせめてもの救い。
「既に血は止まっている、鉄塊もした」
あたしの言おうとしていることなんて全く分かってない。ただ腕が離れるのを待っているルッチが憎かった。
「大したことはない。離れろエム」
さっきの海兵に向けた声とは全然違う低さ、どちらかといえば冷たさの無い声音。だけど、あたしが気にしてるのは、そんなことなんかじゃないんだってば。
傷が六式使いにどれほど意味のないものかなんて知ってる。彼にとって赤が痛みなんかじゃないことも知ってる。この程度で死なないことも知ってる。
だから、
「…死んだら許さない」
その背負った正義に誓って。
「……あぁ」
赤を好み闇にある身、これがあなたの正義の証。
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